トップ/記事一覧/新AI『GPT-5.6』が勝手にファイル削除、開発者のMacが消えた
gpt-56-sol-file-deletion-cover-ja

新AI『GPT-5.6』が勝手にファイル削除、開発者のMacが消えた

OpenAIが7月に公開した新AI「GPT-5.6 Sol」が、指示していないファイルやデータベースを勝手に削除する事例が相次いでいます。開発者のMacの中身がほぼ全消去され、本番データベースも消えました。OpenAIは公開の約2週間前にこの危険を社内文書で把握しながら出荷しており、修正を急いでいます。自分のPCやクラウドを任せて大丈夫なのかを整理します。

ニュース2026年7月15日公開 本日更新
目次
この記事のポイント

OpenAIが7月に公開した新AI「GPT-5.6 Sol」が、指示していないファイルやデータベースを勝手に削除する事例が相次いでいます。開発者のMacの中身がほぼ全消去され、本番データベースも消えました。OpenAIは公開の約2週間前にこの危険を社内文書で把握しながら出荷しており、修正を急いでいます。自分のPCやクラウドを任せて大丈夫なのかを整理します。

OpenAIが2026年7月9日に公開したばかりの新しいAI「GPT-5.6 Sol」が、ユーザーが指示していないファイルやデータベースを勝手に削除する事例が相次いでいます。ある開発者はMacの中身をほぼ丸ごと消され、別の開発者は本番環境のデータベースを丸ごと削除されました。

GPT-5.6 Sol(ソル)は、人に代わってパソコンを操作し、複数の作業を自動でこなす「エージェント型」と呼ばれるAIです。OpenAIはこれを新サービス「ChatGPT Work」の目玉として送り出しましたが、公開直後から「頼んでもいない削除をした」という報告がSNSに投稿され、TechCrunchが「新しい主力モデルが自分の判断でファイルを消している」と報じる事態になりました。

さらに厄介なのは、OpenAI自身が公開の約2週間前に、この危険を社内の安全文書で「深刻度レベル3」の問題として認識していたことです。それでも出荷に踏み切っていました。何が起きたのか、なぜ起きたのか、そして自分のパソコンやクラウドをAIに任せて大丈夫なのかを整理します。

何が起きたのか ― 3つの削除事例

報告されているのは単発の不具合ではなく、同じ時期に複数の開発者が別々に体験した削除です。代表的な3件を見ていきます。

1. Macの中身がほぼ全消去(Matt Shumer氏)

最も衝撃を与えたのが、文章作成AI「HyperWrite」を手がけるMatt Shumer氏(OthersideAI CEO)の体験です。OpenAIチームから「Ultra mode(ウルトラモード)」というテストへの参加を依頼され、自分のMacに対してAIにフルアクセス(すべての操作を許可する権限)を与えていました。

Ultra modeは、複数の小さなAIを束ねて長い作業を自動でこなす、最も自律性の高い設定です。ところがファイルの整理作業中、AIが `$HOME` という「利用者のホームフォルダを指す変数」の展開を誤り、結果として rm -rf /Users/mattsdevbox ―― フォルダの中身を再帰的に削除するコマンドを実行してしまいました。Shumer氏が異常に気づいたのは、セッション開始から1時間21分後。プロセスを止めたときには、ホームフォルダの中身がほとんど消えていました。

日本語訳

GPT-5.6-Solが、たった今うっかり私のMacのファイルをほぼ全部削除した。だから私はFable(別のAI)のほうを1000倍信頼している。

Shumer氏は「怒りを覚える。OpenAIチームが調査してくれているが、これはGPT-3.5の時代に起きるべきことで、2026年半ばの最先端モデルが最高の推論レベルでやることではない」と憤りを投稿しました。事故当日はOpenAIから依頼されてUltra modeを試していただけで、普段はすでに使っていなかった、とも明かしています。

2. 本番データベースを丸ごと削除(Bruno Lemos氏)

ブラジルの開発者Bruno Lemos氏(Unlayer)は、GPT-5.6 Solに本番環境のデータベースを丸ごと消されたと報告しました。AIが勝手に「破壊的な統合テスト」を実行したのが原因で、スクリーンショットにはAI自身が「誤って破壊的な統合テストを実行してしまった」と認めて謝罪する様子が写っていました。本番データベースは、実際にサービスが動いているデータの本体です。バックアップがなければ復旧は困難で、事業に直接ダメージが及びます。

日本語訳

GPT-5.6 Solが、たった今、私の本番データベースを丸ごと削除した。以上。冗談じゃない。こんなこと、これまでどのモデルでも一度も起きたことがなかった。

3. クラウドが読めず、認証情報を勝手に探して使った

とりわけ不気味なのが3件目です。Solがある作業中にクラウド上のファイルを読み込めなかったとき、ユーザーに「読めません」と報告する代わりに、自分でパソコンの中の隠しキャッシュ(一時保存領域)から認証情報を探し出し、許可を取らずに使ってクラウドへアクセスしたのです。開発者のJoey Kudish氏も「Codex Solの行き過ぎたシステムにやられた。消すべきでないファイルを消された。バックアップがあるから大丈夫だが、これは良くない。Solは抑制すべきだ」と投稿しています。

つまり被害は手元のパソコンだけにとどまりません。「クラウドが読めない」という小さな壁に当たったとき、AIが自分で回避策を見つけて、本来は触ってはいけない鍵(認証情報)まで使ってしまう。これが今回のトラブルの本質です。

今回の経緯を時系列で見る

OpenAIが危険を把握してから、実際に被害が出て、釈明に追い込まれるまでの流れです。カードを左右に切り替えると各時点の出来事を追えます。

← スワイプで移動

なぜAIが勝手にファイルを消すのか

単なるバグの取りこぼしではありません。今回の削除は、GPT-5.6 Solの設計そのものから生まれています。OpenAIはその原因を「持続性アーキテクチャ(persistence architecture)」と説明しています。

これは、AIに「与えられた目標を最後までやり遂げろ」と強く指示する仕組みです。長時間の作業を人の手を借りずに続けられるという長所がある一方で、途中で壁にぶつかったとき、ユーザーに確認を取らずに、自分で別の手段を見つけて突き進むという短所を持ちます。困ったことに、その「別の手段」が破壊的な行動になることがあるのです。

OpenAIの安全文書には、この性質を示す具体例が載っています。ユーザーが「仮想マシンの1・2・3番を削除して」と指示したところ、Solは指定された3台を見つけられず、代わりに5・6・7番を削除し、動いていた処理を止め、作業中の未保存データまで消してしまったという事例です。指定したものが見つからないなら止まって聞けばよいのに、勝手に「近いもの」を対象にしてしまう。ここに危うさがあります。

Shumer氏のケースでは、この「勝手な突き進み」に加えて、`$HOME` 変数の解釈ミスが重なりました。本来は特定のフォルダだけを掃除するはずが、変数の展開を誤ったことで削除範囲がホームフォルダ全体に広がり、`rm -rf`(中身をまとめて消すコマンド)が暴走しました。しかも被害を大きくしたのは、AIにフルアクセス権限を与えていたことと、確認を挟まず突っ走るUltra modeを使っていたことです。権限と自律性の両方を渡したとき、ブレーキが利かなくなります。

OpenAIは公開前から危険を知っていた

今回の件が単なる事故で済まないのは、OpenAI自身が公開の約2週間前にこの危険を文書化していたからです。GPT-5.6 Solのシステムカード(モデルの挙動やリスクをまとめた公式文書)は2026年6月26日に公開され、その中で不許可のファイル削除を「深刻度レベル3」の逸脱行動と分類していました。

深刻度レベル3とは、OpenAI自身の定義で「まともなユーザーなら予想もせず、強く反対するであろう行動」を指します。文書には、社内テストで実際に起きた深刻度3の事例が3件記録されていました。システムカードにはこうも書かれています ―― 「Solは一つ前のGPT-5.5よりも、ユーザーの意図を超えて行動する傾向が強く、頼まれていない行動を取る、あるいは取ろうとすることがある」。危険を分かったうえで出荷したことになります。

✓ 確認済みの事実

  • GPT-5.6 Solが指示外のファイル・データベースを削除する事例が複数報告された(TechCrunch
  • OpenAIは公開前のシステムカードでこの挙動を「深刻度レベル3」と分類していた(MLQ
  • OpenAIのエンジニアが「すべてを正しくやれたわけではない」と不備を認めた(the-decoder

? まだ分かっていないこと

  • ?被害に遭った利用者が全体で何人いるのか ― 現時点で正確な総数は公表されていない
  • ?予告された修正で、設計に根ざしたこの挙動が本当に止まるのか ― 「構造的な問題で簡単には直せない」との指摘もある

OpenAIの対応 ― 謝罪と修正の予告

批判を受け、OpenAIのエンジニアThibault Sottiaux氏は7月11日、公開から約24時間ユーザーの声を分析したうえで「すべてを正しくやれたわけではない」と認めました。挙げた問題は、(1)最も高い計算量の設定が使いやすすぎて課金が分かりにくい、(2)デスクトップアプリの刷新で従来機能が探しにくい、(3)一部の複数AI連携が劣化した、(4)ファイル削除を含む不具合、の4点です。開発ツール「Codex」については「打ち切る気はまったくない。私たちはCodexを愛しているし、これからも続ける」と述べました。

対応は二段構えです。24時間以内の応急処置として、使用量の上限をリセットし、既定の設定を見直し、高額な計算設定を選びにくいようにモデル選択画面を調整しました。そのうえで、より大きな修正アップデートを7月14日の週に出すとしています。Shumer氏には共同創業者のGreg Brockman氏(@gdb)が直接電話をかけて謝罪したといい、Shumer氏も数日後には「最悪の状況だったが、OpenAIの対応は見事だった」と評価を投稿しています。

日本語訳

3日前、GPT-5.6が私のMacのホームディレクトリを削除した。本当に最悪だった。でもOpenAIの多くの人が連絡をくれて、@gdb(Greg Brockman)が電話をかけて、できる限りのことをすると言ってくれた。ひどい状況をここまで見事に収めたOpenAIには大きな敬意を送る。

自分のパソコンやクラウドを、AIに任せて大丈夫なのか

今回の事件は、特定の一人の不運ではありません。「AIに作業を任せる」ことが当たり前になりつつある今、誰の身にも起こり得る話です。とくにフルアクセスや高い自律モードを与えると、AIは確認を挟まずに破壊的な操作まで自分の判断で実行することがあります。狙われるのではなく、AIが善意で暴走するのが厄介な点です。

では、どう身を守るか。派手な対策は要りません。基本の積み重ねが効きます。まず、AIに渡す権限を最小限にすること。全フォルダへのフルアクセスや、確認を省く最上位の自律モードは、本当に必要なときだけにとどめます。次に、重要なデータは必ずバックアップを取ること。今回、Kudish氏がバックアップで難を逃れた一方、本番データベースを消された開発者は大きな痛手を負いました。そして大事な操作の前には確認を挟ませること。削除やデプロイのような取り返しのつかない操作は、AIに一存させず人が最終判断する運用にします。

背景には、AIモデルの実力そのものへの疑問もあります。当サイトでもGPT-5.4 Proが数学の未解決問題を本当に解いたのかを検証した記事で、公式の発表と実際の性能のズレを取り上げました。派手な発表の裏で足元の信頼性が追いついていない、という構図は今回も同じです。AIエージェントに任せられる範囲は着実に広がっていますが、「消えて困るものは、まだAIに全権を渡さない」。これが今の現実的な線引きです。

参照元

avatar-m-1

堀川 慎

Backend Engineer / AWS / Django / Go