リコーの複合機・プリンターに社内ネットワーク侵入の踏み台にされる脆弱性 CVE-2026-63226、SSH利用時はファームウェア更新を
リコーのプリンターや複合機に、社内ネットワークへ侵入する"通り道"として悪用されかねない弱点が見つかりました。遠隔メンテナンス用の接続を有効にしている機器が対象で、放置すると他のパソコンやサーバーへ攻撃を中継される恐れがあります。危険度は中程度で悪用報告はまだなく、ファームウェアを最新版へ更新すれば防げます。
目次
リコーのプリンターや複合機に、社内ネットワークへ侵入する"通り道"として悪用されかねない弱点が見つかりました。遠隔メンテナンス用の接続を有効にしている機器が対象で、放置すると他のパソコンやサーバーへ攻撃を中継される恐れがあります。危険度は中程度で悪用報告はまだなく、ファームウェアを最新版へ更新すれば防げます。
オフィスでおなじみのリコー製のプリンターと複合機(コピー・スキャン・FAXなどをまとめた機器)に、社内ネットワークへ入り込む"通り道"として悪用されかねない弱点が見つかりました。2026年7月23日、脆弱性情報を集めた国内の公的データベース「JVN(JVN#32082029)」で公開され、管理番号「CVE-2026-63226」が割り当てられています。
先に結論を書きます。危険度は5段階でいう「中くらい」で、いまのところ実際に悪用されたという報告はありません。しかも対象になるのは、遠隔メンテナンス用の特別な接続(SSH)を有効にしている機器に限られます。ほとんどの家庭用プリンターや、初期設定のまま使っている機器はまず当てはまりません。ただし、企業のIT部門がまとめて管理している複合機では有効にしているケースがあるため、条件と対処を落ち着いて確認しておきましょう。
リコーのプリンター・複合機で何が起きたのか
今回の問題は、リコー製のプリンターや複合機が持つ「SSH」という接続機能にあります。SSHは、機器を離れた場所から安全に操作・保守するための接続方式で、主にIT管理者が設定変更やメンテナンスに使います。
このSSHには、接続した機器を"中継地点"にして別の機器へ通信を転送する「ポートフォワーディング」という機能があります。今回見つかった弱点は、その転送先がどこにも制限されていないという設計上の不備です。本来は必要な相手だけに絞るべき転送先が野放しになっているため、複合機を踏み台にして、社内ネットワークの奥にある別のパソコンやサーバーへ通信を届けられてしまう可能性があります。
発見したのは、米国のセキュリティ企業Pathfynder.ioのBrandon Roach氏とBryan Clements氏です。リコーはこの報告を受けて、転送先に適切な制限を加えた修正版のファームウェア(機器を動かす基本ソフト)を用意しました。リコー公式の脆弱性情報(ricoh-2026-000006)で、対象機種と更新方法が案内されています。
脆弱性の概要(CVE-2026-63226)
今回の弱点の要点を表にまとめました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 管理番号 | CVE-2026-63226 (JVN#32082029) |
| 対象 | SSH機能を搭載した リコー製プリンター・複合機 |
| 弱点の種類 | 通信の転送先を制限していない (CWE-923) |
| 危険度 | 中程度 (CVSS v4.0:6.9/v3.0:5.8) |
| 起こりうること | 機器を踏み台に、社内の 他のパソコン・サーバーへ通信を中継される |
| 条件 | SSH接続を有効にしている場合 |
| 悪用報告 | 現時点でなし |
| 対策 | ファームウェアを最新版へ更新 |
| 公開日 | 2026年7月23日 |
危険度は、脆弱性の深刻さを世界共通の物差しで数値化した「CVSS」という指標で、最新版(v4.0)で10点満点中6.9、ひとつ前の版(v3.0)で5.8です。10点に近いほど深刻という尺度で、いずれも「中程度」に分類されます。無条件で機器を乗っ取られるような最上位の危険度ではありません。
誰が何のために狙うのか
この弱点を突こうとするのは、すでに社内ネットワークのどこかに足がかりを得た攻撃者です。メールの添付ファイルや別の機器の穴からいったん社内に潜り込んだものの、狙いの情報がある奥のサーバーにはまだ手が届いていない、という段階の相手を想定します。インターネット越しにいきなり複合機を乗っ取れる類の弱点ではありません。
その攻撃者は、SSHが有効な複合機を見つけると、その機器を"通り道"にして、本来は直接届かないはずの社内のサーバーやパソコンへ通信を送り込みます。複合機は多くの会社で「安全な機器」として見落とされがちで、監視の目も緩みやすいため、身を隠しながら奥へ進む中継地点として都合がよいのです。
この先に待っているのは、いわゆる「横移動」です。攻撃者が社内を横に渡り歩いて基幹サーバーやファイルサーバーにたどり着けば、機密情報の持ち出しや、業務を止めるための身代金要求型ウイルス(ランサムウェア)を仕掛ける起点になり得ます。複合機そのものが壊れる話ではなく、複合機を入口にして会社全体が危険にさらされる、という点が今回の本質です。なお現時点で、この弱点が米政府機関CISAの「実際に攻撃されている脆弱性リスト」に載った事実はありません(CISA KEVダッシュボード(日本語版)で最新の掲載状況を確認できます)。
そもそも「SSHの通り道(ポートフォワーディング)」とは
仕組みをもう少しかみ砕きます。SSHの「ポートフォワーディング」は、いったん接続した機器を経由して、別の相手と通信できるようにする転送機能です。たとえば自宅から会社のSSH機器につなぎ、その機器を折り返し地点にして、社内だけで使えるシステムへアクセスする、といった正規の使い方があります。IT管理者にとっては便利な機能です。
この機能には本来、「どこへ転送してよいか」を絞り込む制限をかけておくのが安全です。ところが今回のリコー製機器では、その制限が実装されていませんでした。分類名としては「通信の転送先を意図した相手に限定できていない」という意味のCWE-923という型に該当します。
結果として、複合機のSSHにたどり着いた者は、その複合機を折り返し地点にして社内ネットワークのほぼどこへでも通信を投げられる状態になります。玄関の鍵(機器そのものへのログイン)とは別に、玄関を通り抜けて奥の部屋へ続く廊下が開けっ放しだった、というイメージが近いでしょう。
技術的に見るとどうなっているのか
CVSS v3.0の評価内訳を見ると、この弱点の性格がよく分かります。評価ベクトルは「AV:N/AC:L/PR:N/UI:N/S:C/C:L/I:N/A:N」です。ネットワーク越しに(AV:N)、特別な手間なく(AC:L)、利用者の操作を必要とせず(UI:N)成立する一方、機器そのものへの機密性・完全性・可用性の直接的な破壊(I:N/A:N)はほとんど生じません。
注目したいのは「S:C(スコープの変化)」です。これは、弱点のある機器そのものだけでなく、その機器を足場にして"別の管理範囲"へ影響が及ぶことを意味します。複合機は直接壊れないのに、複合機を経由して社内の他の機器が危険にさらされる——今回のポートフォワーディング悪用は、まさにこの「スコープの変化」の典型例です。中程度のスコアに収まっているのは、単体で情報を根こそぎ奪う弱点ではなく、あくまで別の攻撃につなぐ"中継"の性質だからです。
プリンターや複合機は「ただの周辺機器」と軽く見られがちですが、実体はネットワークにつながった立派なコンピューターです。過去にもリコー製を含む各社の複合機で、遠隔から任意のプログラムを実行される深刻な弱点が繰り返し報告されてきました。オフィス機器も、パソコンやサーバーと同じく更新対象として管理する必要があります。詳しい技術情報は、リコーのグローバルのセキュリティ情報一覧やCVE公式レコードでも確認できます。
あなたの機器は対象なのか
まず落ち着いて、次の順で確認してください。分かれ目は「SSHを有効にしているかどうか」です。
- 家庭やSOHOで、買ってきたまま・初期設定のまま使っている → SSHは通常オフで、まず対象外です。
- 個人や小規模事務所で、SSHの設定を触った覚えがない → ほぼ対象外です。心配なら次項の対処だけ確認を。
- 企業のIT部門が複数台をまとめて運用し、遠隔保守のためにSSHを有効にしている → 対象になり得ます。優先して確認してください。
対象機種の正確なリストとファームウェアのバージョンは、機種ごとに異なります。リコー公式の脆弱性情報ページに、対象機種と修正版ファームウェアの案内が掲載されているので、お使いの型番で照らし合わせてください。型番は本体前面や設定画面、管理コンソールで確認できます。
いますぐやるべき対処
対処はシンプルです。以下を上から順に進めてください。
- ファームウェアを最新版へ更新する。リコーが転送先を制限した修正版を提供しています。これが根本的な対策です。
- すぐ更新できない場合は、使っていないならSSH機能を無効にする。遠隔保守で常用していないのであれば、当面オフにするだけでもこの経路は塞げます。
- 複合機を業務ネットワークから分ける(ネットワーク分離)。機器を独立した区画に置き、外部や重要サーバーへ自由に通信できないよう絞ると、万一のときの被害を抑えられます。
- SSHのログイン情報を初期値のままにしない。推測されにくい認証情報に変え、アクセスできる相手を必要な範囲に限定します。
企業で多数の複合機を管理している場合は、まず「どの機器でSSHが有効になっているか」の棚卸しから始めるのが近道です。有効な機器を洗い出し、更新の優先順位を付けていきましょう。
落ち着いて対処すれば怖くない
改めて整理します。今回のCVE-2026-63226は、危険度「中程度」で、成立には「SSHが有効」という前提が必要な弱点です。インターネット越しに誰の複合機でもいきなり乗っ取られる、という種類のものではありません。現時点で悪用の報告もなく、リコーは修正版ファームウェアをすでに用意しています。過度に不安になる必要はありません。
一方で、「複合機は周辺機器だから」と対策を後回しにするのは禁物です。ネットワークにつながる機器は、攻撃者にとって社内へ入り込むための足場になり得ます。オフィス機器もパソコンと同じく、更新して守る対象として棚卸しに組み込む——それがこの一件から得られる、いちばん実用的な教訓です。まずは自分の機器でSSHが有効かどうかを確認し、有効ならファームウェアを最新版へ。それで今回の穴は塞げます。
よくある質問
Q. 家で使っているリコーのプリンターも危ないですか?
A. 買ったまま・初期設定のまま使っている家庭用プリンターは、遠隔保守用のSSHが通常オフのため、まず対象外です。心配な場合でも、ファームウェアを最新に保っておけば安心です。
Q. この弱点で複合機の中のデータを盗まれますか?
A. 今回の弱点は複合機そのものを壊したりデータを直接抜いたりするものではなく、複合機を"通り道"にして社内の別の機器へ通信を中継されるタイプです。狙われるのは複合機の先にあるサーバーやパソコンです。
Q. すぐにファームウェアを更新できません。どうすればいいですか?
A. 遠隔保守でSSHを常用していないなら、当面はSSH機能を無効にするだけでこの経路を塞げます。あわせて、複合機を重要サーバーと同じネットワークに置かない、認証情報を初期値から変える、といった対策も有効です。
Q. すでに攻撃されている報告はありますか?
A. 2026年7月23日の公開時点で、この弱点が実際に悪用されたという報告や、米政府CISAの「実際に攻撃されている脆弱性リスト(KEV)」への掲載は確認されていません。ただし公開直後は状況が変わり得るため、更新は早めに行うのが安全です。
参照元
- ▸ JVN#32082029 - リコー製プリンターおよび複合機のSSH通信機能におけるアクセス制御不備の脆弱性(2026年7月23日)
- ▸ リコー - 脆弱性情報(ricoh-2026-000006)
- ▸ Ricoh - Security Information List by Vulnerability(グローバル)
- ▸ CVE公式レコード - CVE-2026-63226
- ▸ CWE-923 - Improper Restriction of Communication Channel to Intended Endpoints
- ▸ Pathfynder - Brandon Roach(報告者)
- ▸ FIRST - CVSS v4.0 計算機(本件のスコア内訳)

堀川 慎
Backend Engineer / AWS / Django / Go