ブログ/記事一覧/「AIでエンジニアをもっと雇う」と言った5ヶ月後、Atlassianは900人のエンジニアを切った
atlassian-layoff-cover

「AIでエンジニアをもっと雇う」と言った5ヶ月後、Atlassianは900人のエンジニアを切った

Atlassianが1600人をレイオフ。半数以上がエンジニア部門。5ヶ月前の「もっと雇う」発言との矛盾、AIウォッシング批判、日本企業への影響を検証する。

ニュース
kkm-horikawa

kkm

Backend Engineer / AWS / Django

2026.03.237 min9 views

5ヶ月前「エンジニアをもっと雇う」と言ったCEOが、900人のエンジニアを切った

2025年10月、Atlassian(アトラシアン)の共同創業者でCEOのマイク・キャノン=ブルックスは、ポッドキャストでこう語っていました。「AIによってエンジニアをより多く雇用する」

それから5ヶ月後の2026年3月11日、同じCEOが公式ブログで発表したのは、全世界で約1,600人のレイオフ(全従業員の約10%)でした。

削減の半数以上にあたる900人以上がソフトウェアR&D;部門、つまり「もっと雇う」と言っていたエンジニアリング・データサイエンス職です。

Atlassianとは、プロジェクト管理ツール「Jira(ジラ)」やドキュメント共有ツール「Confluence(コンフルエンス)」を開発しているオーストラリアの企業です。世界25万社以上が利用しており、日本でもIT企業や製造業を中心に広く使われています。

CEOは声明の中で「AIは必要なスキルの組み合わせや役割数を変える」と認めています。5ヶ月前の自分の発言をどう整理したのか、説明はありませんでした。

誰が、どこで、何人切られたのか

発表から20分以内に、全世界の対象従業員にメールで通知が届きました。

地域比率推定人数
北米40%約640人
オーストラリア30%約480人
インド16%約256人
その他
(日本・フィリピン・欧州等)
14%約224人

同時に、CTO(最高技術責任者)のラジーブ・ラジャン(元Meta副社長、Microsoft歴20年)が3月31日付で退任。後任はタルーン・マンダーナ(CTO Teamwork)とヴィクラム・ラオ(CTO Enterprise)の2人体制に移行します。

リストラ費用は2億2,500万〜2億3,600万ドル(約338億〜354億円)。退職パッケージとして16週間分の退職金(勤続1年ごとに1週間追加)、6ヶ月の医療保険延長、再就職支援サービスが提供されます。

「AIファースト」転換とは具体的に何をするのか

Atlassianが「エンジニアを切ってまで投資する」と言っているAI製品は、「Rovo」(ロヴォ)というブランド名で展開されています。

機能何ができるか状況
Rovo SearchJira・Confluence等を
横断してAI検索
提供中
Rovo ChatAIチャットで
質問応答・タスク支援
提供中
Agents in JiraJira上でAIエージェントに
タスクを割り当て
2月24日オープンベータ開始
Rovo MCP ServerClaude・Cursor・Gemini等の
外部AIツールからJiraに接続
正式提供中(GA)

Rovoの月間アクティブユーザーは500万人。有料プランが全利用の93%を占めており、エンタープライズ利用が半数を超えています。数字だけ見れば、Atlassianは「AIに投資する理由」を持っているように見えます。

問題は、その投資のために900人のR&D;人員を切る必要があったのかという点です。

これは「AIウォッシング」なのか

「AIウォッシング」とは、環境問題における「グリーンウォッシング」(環境に良いと見せかけること)のAI版です。AIを口実にしてコスト削減を正当化しているのではないか、という批判が複数のメディアから出ています。

HR Digestは「AI口実のコスト削減ではないか」と直接的に批判。Inc.誌は「Atlassianの大量解雇はビッグテックが方向性を見失った証拠」と論評しました。

批判の根拠は明快です。

「AIウォッシング」と指摘される理由

  • CEOが5ヶ月前に「AIでエンジニアをもっと雇う」と発言していた
  • 削減1,600人のうち900人超がR&D;(まさに「もっと雇う」と言っていた職種)
  • CEO声明は「AIが人間を置き換えるのではない」としながら「必要な役割数を変える」と認めている
  • クラウド収益は25%成長中。業績悪化によるリストラではない
  • 匿名SNS「Blind」では、妊娠中に解雇された女性従業員のケースも報告されている

キャノン=ブルックスCEO自身の声明は「This is primarily about adaptation(これは適応の問題だ)」というものでした。「スキルの組み合わせを再構築し、未来に向けて働き方を変えている」と。しかし「適応」という言葉で900人分の椅子を片付けるには、もう少し丁寧な説明が必要だったのではないでしょうか。

「AIで人を切る」と株価は上がる―Blockは40%削減で24%上昇

Atlassianのレイオフは孤立した出来事ではありません。2026年のテック業界では、「AIを理由にしたレイオフ」が1つのパターンになっています。

企業時期削減数削減率株価反応
Block
(旧Square)
2月26日約4,000人40%+24%
Atlassian3月11日約1,600人10%一時+2.9%
翌日-2.8%
Meta
(Reality Labs)
2026年約1,500人10%
Amazon2026年初頭16,000人非開示

特にBlockの事例は象徴的です。CEOのジャック・ドーシーは「AIツールが会社経営の意味を変えた」と直接的にAI代替を宣言し、社員の40%を削減しました。株価は24%急騰しました。

市場が送っているメッセージは明快です。「AIで人を減らせ。そうすれば株を買う」。2026年第1四半期だけで、テック業界全体で4万5,000人以上が職を失いました

Jira・Confluenceを使っている日本企業は何を気にすべきか

Atlassianは日本固有の従業員数や日本市場のシェアを公開していません。ただし「その他地域」14%(約224人)に日本が含まれており、日本オフィスでも一定の影響があったと見られます。

ユーザー企業として気にすべきポイントは以下の通りです。

日本企業が確認すべきこと

  • 製品の開発スピード: R&D;部門が900人減った影響がJira・Confluenceの新機能やバグ修正の速度に出るかどうか
  • AI機能の押し付け: Rovo AIの導入が半ば強制的に進む可能性。AI機能が不要なチームにとってはコスト増になりうる
  • サポート品質: CTO交代と組織再編で一時的にサポート体制が不安定になる可能性
  • 価格改定: AI投資の回収のため、将来的に料金値上げが行われる可能性

現時点で製品の提供に直接的な影響は報告されていません。ただし、R&D;人員が半数近く減るという構造変化は、中長期的に製品の進化速度に影響すると見ておくべきでしょう。

AIリストラの時系列

← スワイプで移動

「AIのせい」と言えば何でも許されるのか

2026年第1四半期だけで、テック業界から4万5,000人以上が去りました。その多くのケースで「AI」が理由として挙げられています。

Atlassianの場合、Rovo AIの500万MAUという実績があり、AI投資自体は合理的に見えます。しかし5ヶ月前に「もっと雇う」と言った人が900人切るのであれば、そこには「計画の変更」以上の説明が必要です。

映画『マネーボール』で、ビリー・ビーンGMはデータに基づいて選手を入れ替え、チームを勝たせました。しかし映画が描いたのは、スプレッドシートに載らない痛み―戦力外通告を受けた選手の表情でした。

Atlassianのスプレッドシートには「Rovo 500万MAU」「クラウド収益+25%」と書いてあるでしょう。同時に、20分で届いたメール1通で仕事を失った1,600人がいます。AIファーストが本物の戦略転換なのか、株主向けの物語なのか。答えは、この先Atlassianが何を作るかで決まります。

参照元