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【衝撃】百度ロボタクシー100台が一斉停止、乗客2時間閉じ込め

2026年3月31日夜、武漢市で百度のロボタクシー「Apollo Go」が100台以上同時停止。乗客は最大2時間閉じ込められ、SOSボタンも機能しなかった。フェイルセーフ設計の限界と、日本の自動運転への教訓を解説。

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2026.04.018 min5 views
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2026年3月31日夜、武漢市で百度のロボタクシー「Apollo Go」が100台以上同時停止。乗客は最大2時間閉じ込められ、SOSボタンも機能しなかった。フェイルセーフ設計の限界と、日本の自動運転への教訓を解説。

武漢で何が起きたのか

2026年3月31日の夜9時ごろ、中国・武漢市の高架道路や幹線道路で、百度(バイドゥ)のロボタクシー「Apollo Go(蘿蔔快跑)」が100台以上、同時に停止しました。大型トラックが行き交う道路の真ん中で車が動かなくなり、乗客は最大約2時間にわたって車内に閉じ込められています。

負傷者はいませんでした。ただし、車のドアは物理的に開けられる状態だったものの、交通量の多い高架道路上では外に出ること自体が危険で、多くの乗客が車内にとどまったまま警察に助けを求めています。

武漢市公安局交通管理局は翌4月1日未明に通報を発表し、「3月31日20時57分以降、122番通報センターに市民から相次いで通報があった」と確認しました。初歩的な調査では「システム障害」とされていますが、百度は本稿執筆時点で公式声明を出していません。

Apollo Goとは何か

Apollo Goは、中国の検索大手・百度が運営する自動運転タクシーサービスです。中国名は「蘿蔔快跑(ルオボ・クアイパオ)」。2026年2月時点で世界26都市に展開し、累計2,000万回以上の配車を完了しています。自動運転の総走行距離は3億km超、うち完全無人運転は1.9億kmに達しており、世界最大の自動運転タクシー事業者を名乗っています。

武漢は人口約1,400万人の中国第8の都市で、Apollo Goにとって最大級の展開拠点です。野村総合研究所の現地レポートによれば、武漢では運転席に誰もいないタクシーが当たり前のように走っており、日本ではまだ実証実験段階の完全自動運転が、すでに日常の交通手段として機能していると報告されています。

料金は1kmあたり0.5〜1.0元(約10〜20円)と、人間のタクシー運転手の半額以下です。安さの裏で、タクシードライバーの雇用を脅かすとして社会的な論争も起きていました。そこに今回の集団停止事件が重なった形です。

SOSボタンは機能しなかった

CarNewsChinaが報じた乗客の証言が、事態の深刻さを物語っています。

乗客の陸さんは、三環路(第三環状道路)の高架上で車が突然停止し、両脇を大型トラックがすり抜けていく中で約2時間閉じ込められました。車内のSOSボタンを押しても「完全に使えなかった」と証言しています。後部座席の画面から電話をかけようとしても、通話が自動的に切断されたといいます。最終的に自分の携帯電話で警察に通報し、午後11時ごろにようやく警察とApollo Goのスタッフが到着しました。

別の乗客・周さんは約1時間半にわたって車内で待機を余儀なくされました。車は「車両に問題が発生しました。ドアを開けないでください」という警告を表示し続けていたといいます。困ったことに、周さんの場合は停止中にもかかわらず料金が満額請求されています。

無人タクシーの「安全の最後の砦」であるはずのSOSボタンと遠隔通話が、まさに必要なときに機能しなかった。これはシステム障害そのものよりも深刻な問題です。

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各方面の反応

関係者の反応は、立場によって温度差があります。

武漢市公安局交通管理局は、通報の事実と「システム障害」という初歩的な判断を発表しましたが、詳細な原因についてはまだ調査中としています。

Apollo Goのカスタマーサービスは、停止の原因を「ネットワークの問題による運転システムの異常」と説明しました。ただし、周さんが問い合わせた際には「広範な障害については把握していない。具体的な車両番号がないと調査できない」と回答しており、全体像を把握していなかった可能性があります。

百度本体は、本稿執筆時点で公式声明を出していません。Bloombergの取材に対してもコメントを拒否しています。100台以上が同時停止するという事態に対して、事業者として沈黙を続けている状況です。

業界関係者は、CnEVPostの報道によれば「突発的な状況に遭遇し、安全自己チェック機構が作動したもの。システムが安全を確保するための能動的な戦略であり、同様の事象はグローバルな自動運転業界でも珍しくない」と分析しています。

ネット上の声

中国のSNS・微博(Weibo)では、湖北省のIPアドレスを持つユーザーたちがリアルタイムで被害を報告しました。「蘿蔔快跑が集団で麻痺した」という投稿は急速に拡散し、自動運転の安全性をめぐる議論が再燃しています。

「料金が安いのは事実だが、高架で止まったらどうしようもない」「SOSが使えないのでは無人タクシーの意味がない」といった声が目立ちます。一方で「人間のタクシーだって事故を起こす。自動運転のほうが統計的には安全」と擁護する声もあり、賛否は割れています。

また、今回の事件を受けてSixth Toneが報じたとおり、武漢でのロボタクシー大量投入がタクシードライバーの生活を圧迫しているという以前からの不満も、再び表面化しています。

技術的に見ると ─ 「停止」は安全策なのか

業界関係者が「安全自己チェック機構が作動した」と説明したとおり、自動運転車が異常を検知したときに停止すること自体は、設計思想として間違っていません。自動運転の世界では「フェイルセーフ(fail-safe)」と呼ばれる考え方で、問題が起きたら安全な状態に戻るという原則です。

ただし、ここに根本的な問題があります。自動運転業界では近年、フェイルセーフからさらに進んだ「フェイルオペレーショナル(fail-operational)」への移行が議論されています。フェイルセーフは「止まれば安全」という前提に立っていますが、高速道路の真ん中で止まることは安全ではありません。フェイルオペレーショナルは、障害が起きても性能を落としながら走行を継続し、安全な場所まで自力で移動してから停止するという設計です。

今回の武漢の事件では、車両が高架道路の走行車線上でそのまま停止しており、路肩への退避や最寄りの安全な場所への移動は行われていません。つまり、Apollo Goのシステムはフェイルセーフ段階にとどまっており、フェイルオペレーショナルの設計には至っていなかった可能性があります。

Waymoでも起きていた

似たような事態は、2025年12月にサンフランシスコでも起きています。大規模停電で信号機が消えた際、Waymoのロボタクシーが道路上で立ち往生し、交通渋滞を引き起こしました。Waymoの場合、消えた信号を「四方向一時停止」として処理する設計でしたが、確認チェックのリクエストが集中し、遠隔監視チームが処理しきれなくなったことが原因でした。

Waymoはその後、停電時のナビゲーションを改善するソフトウェアアップデートを配信し、緊急時の対応手順も見直しています。つまり、Waymoの事件は「問題が起きた → 原因を公表した → 対策を実施した」という透明なプロセスが踏まれました。

一方、百度は現時点で原因の詳細も対策も公表していません。ここが両社の対応の決定的な違いです。

なぜSOSが機能しなかったのか

車両が停止した原因が「ネットワーク障害」だとすれば、SOSボタンや遠隔通話が機能しなかった理由にも説明がつきます。SOSシステムがクラウド経由の通信に依存していた場合、ネットワークが落ちれば当然SOSも使えなくなります。

自動運転車の冗長設計では、通信経路を複数持つ「通信冗長性」が基本とされています。メインのネットワークが落ちたときに備えて、携帯回線や衛星通信など別の経路を確保しておく設計です。少なくとも緊急通報だけは、メインシステムとは独立した通信経路で動作すべきでしょう。今回、SOSと車両制御が同じネットワークに依存していた可能性が高く、これは冗長設計の基本が欠けていたことを示唆しています。

日本の自動運転にとって何を意味するのか

日本では2023年4月の改正道路交通法施行により、レベル4の自動運転が解禁されています。2025年度は全国50カ所での社会実装が政府目標とされ、トヨタは2027年度にレベル4搭載車の市場投入を発表、日産も同年に国内で自動運転サービスを開始する予定です。

現時点では過疎地域の低速移動サービスが中心で、武漢のように都市部の高架道路を無人タクシーが走る状況とは大きく異なります。しかし、自動運転の普及が進めば、いずれ同じ問題に直面する可能性はあります。

武漢の事件は、自動運転タクシーの技術的な課題を3つ浮き彫りにしました。フェイルセーフからフェイルオペレーショナルへの設計の進化が追いついていないこと。緊急通報システムが車両制御と同じ通信経路に依存している危険性。そして、事業者の透明性と説明責任の問題です。

自動運転は「動くこと」が目的ではなく、「安全に止まり、安全に助けを呼べること」が前提です。武漢の夜、その前提が崩れました。日本がこの技術を社会に組み込むとき、同じ轍を踏まないための教訓がここにあります。

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