Cursorの「自社開発モデル」は他社製だった―Composer 2とKimi K2.5
Cursorが自社開発と謳ったComposer 2の正体はMoonshot AIのKimi K2.5+RLだった。APIのモデルIDから発覚し、ライセンス違反で騒動に。
ニュース
kkm
Backend Engineer / AWS / Django
Cursor Composer 2のAPIに「Kimi K2.5」の名前が残っていた
3月19日、AIコーディングエディタCursorが「Composer 2」を発表しました。自社で開発した最強のコーディングモデル――そう銘打たれていました。
発表から24時間も経たないうちに、開発者のFynnがCursorのOpenAI互換APIをいじっていて、あるモデルIDを見つけました。
accounts/anysphere/models/kimi-k2p5-rl-0317-s515-fast
このIDを分解すると、全てが読めます。
| パーツ | 意味 |
|---|---|
| anysphere | Cursorの親会社名 |
| kimi-k2p5 | Kimi K2.5(Moonshot AIのモデル) |
| rl | 強化学習(Reinforcement Learning) |
| 0317 | 2026年3月17日(学習日) |
| s515 | バージョン識別子 |
| fast | 高速配信バリアント |
つまりComposer 2は、中国のAI企業Moonshot AIが公開しているオープンウェイトモデル「Kimi K2.5」をベースに、コーディング用の強化学習をかけたものでした。Cursorの発表ブログにもリリースノートにも、「Kimi K2.5」の文字はどこにもありません。
Composer 2はどんなAIモデルなのか
CursorはComposer 2を「自社で最も高性能なコーディングモデル」として発表しました。「継続的な事前学習」と「スケールした強化学習」を独自の技術革新として強調していました。
技術的には「compaction-in-the-loop reinforcement learning」と呼ばれる手法が使われています。生成がトークン数の上限に達すると、モデルが自分のコンテキストを約1,000トークンに圧縮してから続きを書く。この要約を学習ループに組み込んだことで、長いコードベースでも破綻しにくくなったとされています。
技術自体は評価に値します。問題は、その土台がどこから来たのかを一切言わなかったことです。
Kimi K2.5とは何か、なぜ問題なのか
Kimi K2.5は、中国のAIスタートアップMoonshot AIが開発したオープンウェイトモデルです。コーディング・画像認識・エージェント動作を1つのモデルで処理でき、「Agent Swarm」という機能では最大100の分身を同時に動かしてタスクを並列処理できます。
オープンウェイトとは、モデルの重み(パラメータ)が公開されていて、誰でもダウンロードして使えるという意味です。ただし「オープンソース」とは違い、使い方にはライセンスの制限があります。
そしてこのライセンスが、今回の騒動の核心です。
Kimi K2.5のライセンスはどうなっているか
Kimi K2.5のライセンスは「Modified MIT License」で、こう書かれています。
月間アクティブユーザー1億人超、または月間売上2,000万ドル超の製品・サービスに使用する場合、ユーザーインターフェース上に「Kimi K2.5」を目立つ形で表示しなければならない
ポイントは2つあります。
- 1. この義務は派生著作物にも明示的に適用されると書かれています。つまり「強化学習をかけたから別モデルだ」という抗弁は通りにくい
- 2. Cursorの年間売上は約20億ドル(ARR)、月商に換算すると約1億6,700万ドル。閾値の8倍以上です
にもかかわらず、CursorのUIには「Composer 2」としか表示されていません。ブログ記事にもドキュメントにも、Kimi K2.5の文字は一切ありません。
Moonshot AIはどう反応したか
Moonshot AI側からは複数の動きがありました。
- ― 少なくとも2名のMoonshot社員がSNSで「ライセンス違反だ」と投稿し、その後削除
- ― プリトレーニング責任者のYulun Duが、トークナイザーの類似性を指摘し、ライセンス遵守について公に疑問を呈した
投稿が削除されたことから、水面下で交渉が進んでいる可能性があります。ただ、責任者レベルが公に発言している以上、単なる誤解で終わる話ではなさそうです。
Cursorはなぜ黙っているのか
この記事の執筆時点で、Cursorは公式に何もコメントしていません。
背景にはビジネス上の事情があるかもしれません。Cursorの親会社Anysphereは293億ドルの企業評価額を受けており、500億ドルへの引き上げを目指しているとされています。その交渉過程で「自社開発モデル」の看板は重要なセールスポイントだったはずです。
「実は他社のモデルに強化学習をかけただけでした」と認めることは、そのストーリーを根底から覆しかねません。
「強化学習したら別モデル」は通用するのか
Cursorが取りうる反論の1つは「RLで十分に改変したから、もはや派生著作物ではない」という主張です。
しかし、Kimi K2.5のライセンスは派生著作物にも帰属表示義務が及ぶと明記しています。モデルの重みをそのまま出発点にしている以上、どれだけRLをかけても「ゼロから作った」とは言えません。
HNのコメント欄では、こんな意見が出ています。
「Opus 4.6を打ち負かすコーディング性能は素直に凄い。でも、それを隠す理由がわからない」
技術的な功績と、帰属表示の義務は別の話です。優れた成果を出したなら、なおさら土台への敬意を示すべきだった、というのがコミュニティの大勢です。
開発者コミュニティの反応
Hacker Newsでは210ポイントを超えるスレッドになり、X(旧Twitter)でも急速に拡散しました。
反応は概ね3つに分かれています。
| 立場 | 主な主張 |
|---|---|
| 批判派 | $2B企業がOSSの 帰属表示を隠すのは不誠実 |
| 擁護派 | OSSモデル+RLは正当な 技術活用。結果で評価すべき |
| 懐疑派 | 自社モデル開発を謳って $50B評価を目指す姿勢が問題 |
今後の展開としては3つのシナリオが考えられます。帰属表示を追加して和解する、RLによる改変が「十分な変形」だと主張して争う、あるいは別のベースモデルでComposer 2を作り直す。どの道を選んでも、AIコーディングツール業界に前例を作ることになります。
AIコーディングツールの「中身」は誰が検証するのか
私たちはAIツールに月額20ドルを払い、その中で動いているモデルが何なのかを知らないまま使っています。食品なら原材料表示が義務づけられているのに、AIモデルにはそれがない。
映画で言えば、ゴーストライターが書いた脚本にスター監督が自分の名前だけを載せた状態です。作品の出来が良くても、クレジットを奪ったら業界の信頼が壊れます。
Cursorが今後どう対応するかはわかりません。ただ、1つだけ確かなことがあります。APIに残ったモデルIDは、自分の名前を消し忘れたゴーストライターのようなものでした。そして、インターネットはその名前を見逃しませんでした。
参照元
- 1. Fynn (@fynnso) — モデルID発見のツイート
- 2. Awesome Agents — Cursor's Composer 2 Is Kimi K2.5 With RL - And No Attribution
- 3. Hacker News — Cursor Composer 2 is just Kimi K2.5 with RL
- 4. Phemex — Moonshot AI Accuses Cursor of License Breach
- 5. The Decoder — Cursor takes on OpenAI and Anthropic with Composer 2
- 6. Kimi K2.5 Tech Blog — Visual Agentic Intelligence
- 7. Cursor Changelog — Composer 2 発表
- 8. Mark Kretschmann (@mark_k) — Composer 2のベースモデルについて