【衝撃】イラン戦争でAWSが爆撃、Claudeも世界中で停止した
2026年3月、イランのドローンがAWSデータセンターを直撃し3拠点が被災。冗長化の限界と海底ケーブル30%が脅威下にある現実をエンジニアが解説。
コラム
kkm
Backend Engineer / AWS / Django
データセンターが「爆撃」された日──2026年3月1日に何が起きたか
2026年3月1日、イラン革命防衛隊のドローンとミサイルが、アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンにあるAmazon Web Services(AWS)のデータセンター3拠点を攻撃しました。
AWSは公式に「物理的な影響」がドローン攻撃によるものと認めています。UAEでは2つの施設が直撃を受け、バーレーンでは近接着弾による被害が発生しました。施設では火災が起き、消火活動による水損も重なりました。
これは民間のデータセンターが軍事攻撃を受けた史上初のケースです。
「クラウド」という言葉は、データがどこか抽象的な場所にあるかのような印象を与えます。しかし実態は、どこかの国の、どこかの都市にある、コンクリートと鉄でできた建物です。その建物が爆撃されれば、サービスは止まります。
イランの半官営通信社タスニムは、攻撃後にGoogle、Microsoft、NVIDIA、Oracle、Palantir、IBMの名前を挙げ、「敵の技術インフラ:イランの新たな目標」というリストを公開しました。データセンターは、もはや軍事上の正当な標的として認識されています。
同じ日に何が止まったか──確認された障害と、因果関係がわからないもの
まず事実を整理します。AWSの中東リージョンでは、3つのアベイラビリティゾーン(AZ)のうち2つが著しく損傷し、109以上のサービスが停止しました。
| カテゴリ | サービス/企業 | 影響の内容 | 出典の確度 |
|---|---|---|---|
| AWSインフラ | EC2, S3, RDS, DynamoDB, Lambda, CloudWatch 等 | 中東2リージョンで109+サービス停止 | AWS公式確認 |
| 金融 | Abu Dhabi Commercial Bank, Emirates NBD, First Abu Dhabi Bank | オンラインバンキング停止 | CNBC報道 |
| 決済 | Hubpay, Alaan | 決済処理不能 | CNBC報道 |
| 配車 | Careem | サービス停止 | CNBC報道 |
| データ分析 | Snowflake | AWS Middle East (UAE) デプロイで障害宣言 | Snowflake公式 |
StatusGatorの集計によれば、この攻撃に関連して障害を報告したSaaS・クラウドサービスは92に上ります。上の表は、大手メディアの報道で名前が確認できたものだけを載せています。
同じ日に起きたこと:Claude障害とUS-EAST-1の不安定
3月2日、AnthropicのAIアシスタント「Claude」が世界規模で障害を起こしました。claude.ai、Claude Code、認証サービスが停止し、Downdetectorには約2,000件の報告が寄せられました。Claudeは最近、障害の頻度が上がっています。ユーザー数が急増しているのが主因でしょう。
同時に、AWSの最重要リージョンであるUS-EAST-1(バージニア北部)でも「Multiple Services Operational Issue」がAWS Health Dashboardに記録されています。
ここは誠実に書いておきます。中東リージョンの被災と、Claude障害・US-EAST-1の不安定が同じ日に起きたのは事実です。しかし、これらの因果関係は公式には確認されていません。
Claude障害について詳細な分析記事は、直接原因はユーザー急増によるフロントエンド過負荷であり、中東攻撃との因果関係は否定的な見方を示しています。一方で、AWSがリージョン間でトラフィックを再配分した際に、他リージョンの負荷が上がった可能性を指摘する声もあります。断定できる材料はまだありません。
ただ、因果関係が確定していなくても、この出来事が突きつける問いは明確です。世界のクラウドインフラは想像以上に相互依存しており、ある地域の物理的な破壊が、地球の裏側のサービスに影響を及ぼし得るという現実です。
「3つに分散してたのに」なぜ冗長化は無力だったのか
AWSをはじめとするクラウドサービスは、「アベイラビリティゾーン(AZ)」という仕組みで可用性を確保しています。ひとつのリージョン(地域)の中に、物理的に離れた複数のデータセンター群を配置する設計です。
AWSのUAEリージョン(ME-CENTRAL-1)には3つのAZがありました。通常、ひとつのAZが故障しても、残りの2つがサービスを引き継ぎます。これが「Multi-AZ」と呼ばれる冗長化の考え方です。ハードウェアの故障、電源トラブル、局所的な自然災害には、この設計で十分に対応できます。
しかし今回、3つのAZのうち2つが同時に被弾しました。残った1つのAZだけでは、本来3つで分担していた処理を捌ききれません。結果として、リージョン全体が実質的に機能停止に陥りました。
Multi-AZはハードウェア障害への備えであり、ミサイル攻撃への備えではありません。AZ間の距離は設計上100km以内に収められており、自然災害の局所性を想定しています。広域の軍事攻撃は設計前提の外です。
この出来事は、Data Center Knowledgeが指摘するように、クラウドのリージョン選びに新しい基準を加える必要性を示しています。レイテンシー、データ主権、コンプライアンスに加えて、「その地域の地政学的安定性」が設計判断に入る時代になりました。
日本のクラウド利用者にとっては、東京リージョン(ap-northeast-1)が主な利用先であり、中東リージョンを直接使っている企業は少数です。しかし、今回の教訓は「ひとつのリージョンに頼り切ることのリスク」を改めて浮き彫りにしました。自然災害の多い日本では、大規模地震によるリージョン障害も想定すべきシナリオです。
もうひとつの時限爆弾──海底ケーブル17本が通るホルムズ海峡
データセンターへの物理的な攻撃と並んで、もうひとつ深刻な脅威があります。海底ケーブルです。
現在、国際通信の約99%は海底ケーブルを経由しています。衛星通信は補助的な役割にとどまり、大陸間の大量データ通信は、海の底を走る光ファイバーケーブルなしには成り立ちません。
Submarine Networksの報告によれば、ペルシャ湾を通過する海底ケーブルは17本。これらは大陸間トラフィックの約30%を担っています。銀行取引、クラウドコンピューティング、政府間通信、動画ストリーミング──これらの通信がこの17本を流れています。
そして今、Rest of Worldの取材が伝えるように、ホルムズ海峡と紅海の両方が商用船舶の航行不能な状態になっています。海底ケーブルが損傷しても、修理船が入れないのです。
通常、海底ケーブルの損傷は数週間で修理できます。しかし修理船が航行できない海域では、紛争が終わるまで壊れたままになる可能性があります。これは前例のない事態です。
日本への影響はあるのか
日本とヨーロッパを結ぶ通信ルートの一部は、東南アジア経由で紅海・地中海を通過するケーブルに依存しています。地経学研究所の分析が指摘するように、このルートが遮断されれば、日欧間の通信遅延や帯域の逼迫が生じる可能性があります。
日本政府もこのリスクを認識しており、総務省の資料では、日本海側の海底ケーブル整備や陸揚局の分散など、通信インフラの強靭化が進められています。ただし、既存の太平洋ルート(日本-米国間)は今回の紛争の影響をほとんど受けないため、日本のインターネット接続がすぐに途絶えるという状況ではありません。
日本にいる私たちはどう備えるか
個人でできること
- ▸日常的に使うサービスの代替手段を把握しておく。たとえばClaude障害時にはGeminiやChatGPTが使えるように、複数のAIツールに慣れておく
- ▸重要なデータはクラウドだけに頼らず、ローカルバックアップを持つ。クラウドストレージ(Google Drive、iCloud等)の中身を定期的にダウンロードする
- ▸「このサービスが明日使えなくなったら」を一度考えてみる。意外と多くのことがひとつのクラウドサービスに依存している
企業・エンジニアが考えるべきこと
- ▸マルチリージョン設計の再検討:Multi-AZだけでは足りない。リージョンをまたいだ冗長化、可能であればマルチクラウド構成を検討する
- ▸リージョン選定に地政学的リスクを組み込む:レイテンシーやコストだけでなく、その地域の政治的安定性や軍事的リスクを設計判断に含める
- ▸障害を前提としたアーキテクチャ:「リージョンが丸ごと消える」シナリオをDR(災害復旧)計画に含める。JBpressの分析が指摘するように、国内での冗長性だけでは不十分な時代になった
今回の攻撃で幸いだったのは、日本のユーザーが主に使うAWSの東京リージョン(ap-northeast-1)やオレゴンリージョン(us-west-2)は直接的な被害を受けなかったことです。しかし「たまたま今回は大丈夫だった」という事実は、備えなくていい理由にはなりません。
私たちのインターネットは、思っているより物理的なもの
「クラウド」「ワイヤレス」「オンライン」──私たちが日常的に使うこれらの言葉は、どれもインターネットが物理的な存在であることを覆い隠しています。
しかし現実には、あなたのデータはどこかの国のコンクリートの建物に保管され、海の底に沈む光ファイバーケーブルを通じて世界中とつながっています。その建物が爆撃されれば、データは取り出せなくなります。ケーブルが切れれば、通信は途絶えます。
2026年3月の出来事は、そのことを改めて思い出させてくれました。
この記事で取り上げた事実には、確認できたものと、まだ因果関係が不明なものがあります。今後の調査で新たな情報が出てくる可能性があります。その際はこの記事も更新します。