SNS誹謗中傷の削除、申請から7日以内に判断義務。情プラ法で5社指定
2025年4月施行の情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法)により、YouTube・Instagram・X・TikTok・LINEヤフー運営サービスの5社が、誹謗中傷など権利侵害投稿の削除申請から7日以内に判断・通知する義務を負っています。違反すれば法人は最大1億円の罰金。施行1年で何が変わったのか、義務の中身を整理します。
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kkm
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2025年4月施行の情プラ法(情報流通プラットフォーム対処法)により、YouTube・Instagram・X・TikTok・LINEヤフー運営サービスの5社が、誹謗中傷など権利侵害投稿の削除申請から7日以内に判断・通知する義務を負っています。違反すれば法人は最大1億円の罰金。施行1年で何が変わったのか、義務の中身を整理します。
SNS上の誹謗中傷投稿について、大手プラットフォーム5社が「申請から7日以内に削除するかどうかを判断する義務」を負っていることをご存じでしょうか。2025年4月に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」(通称・情プラ法)によるもので、対象はYouTube・Instagram・X・TikTok・LINEヤフー運営の各サービスです。
施行から1年余りが経った2026年5月時点で、義務の中身と各社の対応状況、利用者にとって何が変わるのかを整理します。
情プラ法はどんな法律か
正式名称は「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」です。長いので、総務省も通称として「情報流通プラットフォーム対処法」を使っています。
もとになっているのは2002年から続いてきた「プロバイダ責任制限法」です。SNSでの誹謗中傷に対して投稿削除や発信者特定の枠組みを定めていましたが、削除までに時間がかかりすぎる・運用が見えないといった批判が積み重なり、2024年5月の改正で法律名ごと変わり、2025年4月1日に新ルールが施行されました。
大きな変更点は2つあります。1つは、巨大プラットフォームを特別に指定して義務を上乗せする仕組みを作ったこと。もう1つは、削除判断の期限と、運用結果を公表させる仕組みを作ったことです。
指定された5社と対象サービス
総務省は2025年4月30日、月間の利用者数が1千万人以上などの基準を満たした事業者を「大規模特定電気通信役務提供者」(長いので、以下は大規模プラットフォーム事業者と書きます)として指定しました。Internet Watchの報道によると、指定されたのは以下の5社です。
| 指定事業者 | 対象となるサービス |
|---|---|
| Google LLC | YouTube |
| LINEヤフー株式会社 | Yahoo!知恵袋、Yahoo!ファイナンス、 LINEオープンチャット、LINE VOOM |
| Meta Platforms, Inc. | Facebook、Instagram、Threads |
| TikTok Pte. Ltd. | TikTok、TikTok Lite |
| X Corp. | X(旧Twitter) |
日常的に使われている主要なSNS・動画・掲示板系サービスのほとんどが入っています。指定されると、後述する追加の義務がかかります。
なお、ZennやQiitaのようなエンジニア向けの投稿サービスは、利用者数の基準を満たしていないため指定対象には入っていません。指定対象外のサービスにも、もとのプロバイダ責任制限法時代から続く一般的な削除・発信者情報開示のルールは適用されます。
5社に課された3つの義務
指定された5社には、ざっくり以下の3つの義務が上乗せされました。
① 削除申請窓口の整備と公表
「自分への中傷が書かれている」「個人情報をさらされた」といった申し出を受け付ける窓口を、誰でもわかる形で用意し、手続きを公開しなければなりません。これまでは申請ルートがサービスごとにわかりにくく、被害者が泣き寝入りするケースも多かった部分です。
② 申請から7日以内に削除判断を出す
原則として、削除申請を受けた日から7日以内に削除するかどうかを判断し、申請者に結果を通知する義務があります。これが今回の改正で最も大きな変更点です。判断結果は「削除した」「削除しなかった(理由付き)」のいずれかを返す必要があります。
なお、「申請から7日以内に削除されなければならない」と誤解されがちですが、正確には「7日以内に判断・通知する義務」です。削除しないと判断した場合でも、理由を付けて返す必要があります。
③ 年に1回、運用状況を公表する
削除申請が年間で何件来て、そのうち何件を削除したか、削除しなかった理由は何が多かったか――こうした運用状況を、原則として年度ごとに公表しなければなりません。これが「透明性確保」と呼ばれる部分です。
これまでは「申請したけれど何も返事がない」「削除されたかどうかもわからない」といった声が多くありました。年次の数字を公表させることで、各社の対応姿勢を比較できるようにする狙いです。
違反するとどうなるか
義務を守らない事業者には、まず総務大臣から勧告や是正命令が出されます。それでも従わない場合は、刑事罰の対象になります。
| 対象 | 罰則の上限 |
|---|---|
| 違反した個人 | 1年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金 |
| 違反した法人 | 最大1億円の罰金 |
法人に対する1億円という金額は、日本の情報法制の中では重い方です。Googleや Metaのような巨大企業にとっては痛い額ではありませんが、繰り返し違反が認定されれば、その都度科される設計になっています。
実際に罰則が適用された事例はまだありません。法律の建付け上、いきなり罰則ではなく、まず総務省からの是正命令が前段にあるためです。
利用者にとって何が変わったのか
使う側として、3つの変化があります。
1つ目は、削除申請ルートがわかりやすくなったことです。各社のヘルプページに「権利侵害の申し出」専用フォームが整備され、メールアドレスや氏名・身分証明書類の提出ルールも明示されるようになりました。これまでは「どのフォームから出せばいいのか」を探すだけで時間を取られていました。
2つ目は、返事が必ず来るようになったことです。削除されたかどうかだけでなく、削除されなかった場合も理由が示されます。「申し出が放置される」状態は法律上できなくなりました。これは特に、商品レビューサイトでの虚偽情報や、いわゆる「リベンジポルノ」と呼ばれる私的画像の無断公開を巡る対応で、被害者側の動きやすさが大きく変わる部分です。
3つ目は、各社の運用姿勢を数字で比較できるようになることです。透明性報告で削除率や処理日数の中央値が公表されれば、「対応の早い会社」と「遅い会社」が見えてきます。広告を出す企業や、サービス選定をする利用者にとって、判断材料が増えます。
一方で、誤った削除が増えるリスクも指摘されています。7日というタイトな期限の中で大量申請をさばくため、機械的に削除されてしまう投稿が出てくる可能性があるためです。米国ではSNS各社を相手取った「欠陥商品としての陪審裁判」も始まっており、プラットフォームの責任範囲を巡る議論は世界的にも進んでいます。
追加指定された4社と今後
2025年5月以降、利用者規模が増えたサービスを運営する事業者が追加指定されています。複数の報道によると、株式会社ドワンゴ(ニコニコ動画)、株式会社サイバーエージェント(Ameba関連)、Pinterest Europe Limited(Pinterest)などが対象に加わりました。
指定基準は「月間アクティブユーザー1千万人以上、または1か月の投稿数200万件以上」とされています。一度指定対象から外れていたサービスでも、利用者が増えれば追加指定される仕組みです。
なお、指定対象外であっても、AIで生成された投稿の扱いやコミュニティガイドラインの整備など、各社が自主的に対応を進める動きも広がっています。Bluesky上で動くAIフィードビルダー「Attie」のような新しいSNSの設計も、「誰がタイムラインを決めるか」という観点から、情プラ法の議論と地続きにあります。
まとめ
情プラ法の施行から1年余り、SNS上の誹謗中傷や違法投稿への対応は、各社の自主性に任されてきた時代から、法律で期限が切られた時代に入りました。7日以内の判断、年次の運用報告、最大1億円の罰金――この3つが大規模プラットフォーム事業者の運営を縛る基本のラインです。
利用する側として大事なのは、「申請すれば必ず返事が来る仕組みができた」ことを知っておくことです。被害に遭った時、泣き寝入りの選択肢を一段押し下げる制度になっています。透明性報告の第1弾が出てくる2026年度後半は、5社の対応姿勢が初めて数字で比較される時期になります。動きを引き続き追っていきます。