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マスクは「株主を騙して買収価格を下げようとした」―陪審が認定したTwitter買収の裏側

2026年3月20日、米陪審がイーロン・マスクのTwitter買収における「株主への虚偽説明」を認定。「一時保留」ツイートで株価を操作し、賠償額は最大26億ドルに。裁判の経緯と構造を解説。

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2026.03.215 min6 views

陪審が「マスクは株主を騙した」と認定した

2026年3月20日、カリフォルニア北部連邦地方裁判所の9人の陪審員は、イーロン・マスクが2022年のTwitter買収に際して株主を欺いたと全員一致で認定しました。

問題になったのは、マスクが2022年5月に投稿した2つのツイートです。「買収は一時保留」「ボットが20%いる」。この発言でTwitterの株価は急落しました。陪審は、これらの発言が虚偽または誤導的であり、株主に損害を与えたと判断しています。

賠償額は最大約26億ドル(約3,900億円)になる可能性があります。マスクの純資産6,611億ドルの0.4%に過ぎませんが、「世界一の富豪が陪審裁判で負けた」という事実のインパクトは金額以上です。

「詐欺」と認定された2つのツイートとは何か

マスクは2022年4月25日、Twitter取締役会との間で1株54.20ドル(総額約440億ドル)での買収契約を締結していました。拘束力のある合意です。

その約3週間後、マスクは以下のツイートを投稿しました。

ツイート1(2022年5月13日)

"Twitter deal temporarily on hold pending details supporting calculation that spam/fake accounts do indeed represent less than 5% of users"

(Twitter買収は一時保留。スパム/偽アカウントが本当にユーザーの5%未満であるという計算の裏付けを確認するまで)

数時間後に「Still committed to acquisition(買収には引き続きコミットしている)」とフォローアップ

ツイート2(2022年5月17日)

"20% fake/spam accounts, while 4 times what Twitter claims, could be much higher. My offer was based on Twitter's SEC filings being accurate."

(偽/スパムアカウントが20%、Twitterの主張の4倍だが、もっと多い可能性もある。私のオファーはTwitterのSEC提出書類が正確であることを前提としていた)

ここで重要なのは、マスクとTwitterの間の買収契約には、マスクが一方的にディールを「保留」にできる条項は存在しなかったということです。「一時保留」という表現自体が虚偽だった、と陪審は認定しました。

さらに、元Twitter CFO(最高財務責任者)のNed Segalが裁判で証言し、実際のスパム率は約1%であり、マスクの「20%」という主張には根拠がなかったと述べています。

なぜ買収価格を下げたかったのか

原告(Twitter株を売却した株主たちのクラスアクション)の主張はこうです。マスクは440億ドルの買収契約を結んだ後、「高すぎる」と後悔した。そこで「ボットが多い」という口実でツイートを投稿し、株価を意図的に下げて、買収価格の引き下げまたはディール撤退の交渉材料にしようとした。

実際、これらのツイートの後、Twitter株は1株30ドル台まで急落しました。買収契約の54.20ドルから40%以上の下落です。

マスクは実際に2022年7月、買収を正式に撤回しようとしています。Twitter側がデラウェア州の裁判所に提訴し、最終的にマスクは当初の条件通り440億ドルで買収を完了しました。

買収から裁判までの時系列

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賠償額は最大26億ドルになる可能性がある

陪審は、マスクのツイートが約5ヶ月間(2022年5月〜10月)にわたりTwitter株価をどれだけ押し下げたかを、各取引日ごとに算出しました。1株あたり1日約3〜8ドルの損害です。

原告弁護士の試算では約21億ドル。クラスアクション(集団訴訟)のため、最終的な賠償総額は請求を提出する株主の数で変わります。最大で約26億ドルになる可能性があると報じられています。

ただし、陪審は「組織的な詐欺スキーム」は否定しています。マスクが計画的に株価操作を企図していたとまでは認定されませんでした。これは控訴において重要な論点になります。

マスク側は控訴する構え

マスクの弁護団(Quinn Emanuel法律事務所)は評決直後に声明を出しました。

"We view today's verdict, where the jury found both for and against the plaintiffs and found no fraud scheme, as a bump in the road. And we look forward to vindication on appeal."

(陪審が原告の主張を部分的に認め部分的に退け、詐欺スキームを否定した今日の評決は、道のりの中の小さな障害に過ぎない。控訴での逆転を楽しみにしている)

裁判中の弁護も印象的でした。マスクの弁護士Michael Lifrak氏は陪審に向かってこう述べています。「彼は馬鹿なツイートをすることもある。しかしこれは馬鹿なツイーター裁判ではない」。

マスク自身も証言台で「『一時保留』は会議に遅れるようなもので、出席しないという意味ではない」と弁明しましたが、陪審には通じませんでした。

なお、この裁判とは別にSEC(米国証券取引委員会)もマスクを提訴中です。2022年にTwitter株5%超の保有開示を11日間遅延させた件で、現在和解交渉中と報じられています。

「世界一の金持ち」でも陪審には勝てない

マスクは2018年のTesla「資金確保済み(funding secured)」ツイートでもSECに提訴されて和解しています。2023年のTesla証券訴訟では勝訴。今回は初めて陪審裁判で負けました。

原告弁護士のJoseph Cotchett氏は評決後にこう述べています。「富や権力があっても法に従わなければならないという強いメッセージだ。何人も法の上にはいない」。

映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で、ジョーダン・ベルフォートは株価を操作して投資家を騙し、最終的に投獄されました。マスクのケースはもちろんそこまで極端ではありません。しかし「自分のSNSで何を言っても自由だ」と思っていた人が、140文字のツイート2つで26億ドルの賠償を命じられる可能性がある。

SNSの発言が市場を動かす力を持つ時代に、その発言の責任はどこまで問われるべきなのか。控訴審の行方を見守る価値があります。

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