
電算システムが大阪府警の人事システム移行で撤退。予定価格6割で落札の末、その後どうなったか
大阪府警の人事システム移行を落札した電算システムが、予定価格の約6割で受注したのち本稼働5カ月前に撤退。撤退から1年、大阪府の入札参加停止は2026年5月に満了し、再入札の公表はまだない。経緯と現況、ベンダー撤退で止まった全国189件のシステムまで整理する。
目次
大阪府警の人事システム移行を落札した電算システムが、予定価格の約6割で受注したのち本稼働5カ月前に撤退。撤退から1年、大阪府の入札参加停止は2026年5月に満了し、再入札の公表はまだない。経緯と現況、ベンダー撤退で止まった全国189件のシステムまで整理する。
電算システムが大阪府警の人事システム移行で撤退、何が起きたのか

大阪府警察本部の人事システム(正式名称「新人事管理システム」)の移行プロジェクトが頓挫しました。移行を落札したのは、岐阜市に本社を置くシステム開発会社電算システム。予定価格の約6割という安値で受注したのち、開発遅延を重ね、本稼働のわずか5カ月前に「履行できない」として契約解除を申し出て撤退しました。大阪府は翌日、電算システムに1年間の入札参加停止措置を決定しました。この停止期間は2026年5月21日で満了しており、いまは続いていません。まず、何が起きたのかを順に見ていきます。
大阪府警察本部には、1970年代から50年以上にわたって稼働し続けているメインフレームの人事管理システムがあります。職員の人事情報を管理する基幹システムで、半世紀にわたって止まることなく動いてきました。
メインフレームとは、大量のデータ処理を行う大型コンピュータのことです。銀行のATMや航空会社の予約システムなど、止まると社会に大きな影響が出るシステムで長く使われてきました。信頼性は極めて高い一方で、技術者の高齢化・保守コストの増大・メーカーのサポート終了といった問題を抱えています。
大阪府警はこの老朽化した人事管理システムを、現代的な「オープン系」のシステムに移行しようとしました。2022年に入札を公示し、新しいベンダーを選定。2030年3月までの開発・運用・保守を一括で契約しました。
しかし、このプロジェクトは頓挫しました。
電算システムの入札参加停止は明けた。撤退後に何が起きたか
撤退の報道を読んで「その後どうなったのか」を探している方が多いので、先に現在の状況をまとめます。2026年8月時点で分かっているのは次の3つです。
- →入札参加停止は終わっている。大阪府が課した停止の期間は2025年5月22日から2026年5月21日までの1年間で、期間の満了とともに解けています。
- →大阪府警の再入札は公表されていない。大阪府警察本部の発注予定のページにも、大阪府の入札公告にも、人事管理システムの後継案件は出ていません(2026年8月確認)。
- →賠償や裁判の公表はない。電算システムホールディングスが2026年2月に出した2025年12月期の決算短信にも、2026年3月に提出した有価証券報告書にも、この契約解除を名指しした訴訟・損害賠償の記載は見当たりません。

停止措置は「期間が来たら自動的に終わる」形のもので、解除を知らせる発表は出ません。そのため、いま検索して最初に出てくるのは2025年5月の「1年間の停止」という記事ばかりになります。この記事を書いている時点では、電算システムは大阪府の入札に再び参加できる状態です。
一方で、この案件そのものが振り出しに戻ったままだという点は変わっていません。大阪府警の人事管理システムは50年以上動いてきたメインフレームのままで、次に誰が作るのかも決まっていません。以下では、そこに至った経緯と、同じ詰まり方が全国でどれだけ起きているかを見ていきます。
電算システムとは。大阪府警の入札を6割で落札したベンダー
先に、この件で名前が出る「電算システム」がどんな会社かを整理しておきます。検索でこの記事にたどり着いた方の多くは、まずここを知りたいはずです。
電算システム(正式名称:株式会社電算システム)は、岐阜県岐阜市に本社を置くシステム開発会社です。自治体向けの基幹システム開発・収納代行・データセンター運営を主力とする、国内のクラウド系SIerとしては中堅上位の会社です。東証プライム上場の電算システムホールディングス傘下の事業会社で、1966年創業。Google Cloudの国内パートナーとしても知られており、決して無名のベンダーではありません。
その電算システムが、大阪府警察本部の人事管理システム移行を、富士通Japanとの一騎打ちで落札しました。落札額は予定価格の約6割。一般的に「叩いた」と言われる水準で、メインフレーム移行のような難案件で取りに行く価格としては相当に攻めた数字です。発注者側が用意した「低入札価格調査制度」(異常な安値を弾く仕組み)も、この案件では通過してしまいました。
このベンダー選定がプロジェクトの帰趨を決めた、というのが本件の核心です。以下、入札から撤退まで、何が起きたかを時系列で見ていきます。
大阪府警の人事システム移行で何が起きたのか
大阪府警が発注した「新人事管理システム開発運用保守業務」の入札は、2022年6月に行われ、2社が参加しました。富士通Japanと、電算システム(岐阜県岐阜市、東証プライム上場の電算システムホールディングス傘下のシステム開発会社)です。
落札したのは電算システム。予定価格の約6割という安値での落札でした。大阪府には「低入札価格調査制度」があり、異常に安い入札は調査対象になります。しかし、結果的にこの安値入札は通ってしまいました。
問題は開発着手直後から始まりました。日経クロステックの報道によれば、早期から開発遅延が発生。大阪府警が計画を変更して対応を試みましたが、遅延は解消されませんでした。
そして2025年5月、本来のシステム稼働予定日(2025年10月)のわずか5ヶ月前に、電算システム側が「仕様書に定められた通りの履行ができない」として契約解除を申し出ました。事実上の撤退です。
大阪府は翌日、電算システムに対して1年間の入札参加停止措置を決定。電算システムホールディングスも適時開示で契約解除を公表しました。
大阪府警と電算システムの経緯。入札から撤退までの時系列
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なぜ撤退したのか。安値入札が破綻する理由
公共機関のシステム開発では、多くの場合「最低価格入札方式」が採用されます。最も安い価格を提示したベンダーが受注する仕組みです。
一見合理的に見えますが、大きな問題があります。ベンダーは受注するために無理な安値を提示し、実際に開発が始まると人員やリソースが足りなくなる。見積もりが甘かったことに開発途中で気づいても、契約金額は変えられない。結果として、品質が下がるか、最悪の場合は今回のように撤退に至ります。
大阪府には「低入札価格調査制度」があり、異常に安い入札を事前に調査する仕組みはありました。しかし、予定価格の約6割という入札がこの調査を通過してしまった以上、制度が十分に機能していたとは言いがたい状況です。
IT業界では「安かろう悪かろう」が通用する場面は限られます。とくにメインフレームからの移行は、50年分の業務ロジックを理解し、新しい技術に正確に移し替える作業です。技術力と経験がなければ対応できません。
特許庁55億円、京都市117億円。公共システム開発の失敗事例に共通するパターン
大阪府警の事例は孤立した失敗ではありません。日本の公共機関では、同じパターンの失敗が繰り返されています。
| 事例 | 損失額 | 経緯 |
|---|---|---|
| 特許庁 基幹システム刷新 | 55億円 | 2004年から8年がかり。 東芝ソリューション+ アクセンチュアが担当。 全額返還で決着 |
| 京都市 基幹システム刷新 | 117億円 | 30年稼働のシステムを刷新。 ベンダーと見解対立で中断。 一審は双方50%責任。 双方が控訴し係争は継続 |
| 大阪府警 人事管理システム | 非公開 | 50年稼働のシステムを移行。 予定価格の約6割で落札。 開発遅延で本稼働5ヶ月前に ベンダーが撤退 |
3つの事例に共通するのは、「レガシーシステムの移行は想像以上に難しい」という事実が、プロジェクト開始時に過小評価されていることです。そして、安値入札や見積もりの甘さがそのリスクをさらに増幅させています。
京都市の件は、2024年2月に東京地方裁判所が一審の判決を出し、遅れの責任は市とベンダーで五分五分だと判断しました。ただし双方がこれを不服として控訴しており、最初の提訴から8年が経った2026年8月時点でも決着していません。失敗したあとの後始末そのものが、何年もかかる仕事になるということです。
ベンダー撤退で止まったシステムは全国に189件ある
「大阪府警の話は珍しい失敗なのか」を確かめられる数字が、2026年6月30日にデジタル庁から出ています。自治体の基幹業務システムを国の標準仕様に合わせる作業について、2025年度末の期限に間に合わなかったシステムを数え上げた集計です。

全国3万4,366システムのうち、1万13システム(29.1%)が期限に間に合いませんでした。自治体の数でいうと1,015団体で、全1,788団体の56.8%にあたります。半分以上の自治体が期限を守れなかった、ということです。
注目したいのは、その理由の内訳です。いちばん多いのは「事業者の人手が足りず作業が遅れた」もので9,590件。そのほかに、現在の事業者が新しいシステムを作らないと決めていて、代わりに頼める先も見つからないものが189件(102団体)、今のシステムがメインフレームで動いていて動かせないものが44件(7団体)あります。
この2つは、大阪府警で起きたことと同じ形です。作る会社がいなくなり、古い大型機がそのまま残る。大阪府警の人事管理システムは自治体標準化の対象20業務には含まれないので、この表の中には入っていません。けれども同じ詰まり方が、国の集計に載るだけで200件以上あるということになります。
デジタル庁は今後の見通しとして、2026年度末までに全体の約9割が移行を終える見込みだとしています。裏を返せば、1年遅れてもなお1割は残るという計算です。
富士通メインフレームは2035年に消える
大阪府警のシステムが依存しているとみられる富士通のメインフレームには、明確なタイムリミットがあります。
- → 2030年度末: 富士通がメインフレームの製造・販売を終息
- → 2035年度末: 保守サポートが完全終了
日経クロステックの報道によれば、2024年時点で富士通製メインフレームは全国に約650〜700台残っています。年間に移行できる台数は約20台と推定されており、計算上は2035年の保守終了に間に合わない可能性があります。
2026年8月から数えると、製造・販売の終息まであと約4年、保守の終了まであと約9年半です。移行の実績が年20台のままなら、この期間で片づく台数ではありません。近ごろは「2035年の崖」という言い方も出てきていますが、指しているのはこの保守終了の期限です。
経済産業省が2018年に警告した「2025年の崖」(レガシーシステムを放置した場合に年間最大12兆円の経済損失が発生するという予測)は、すでに現実の問題になっています。大阪府警の事例は、その崖から落ちた1つのケースです。
「2025年の崖」は結局どうなったのか
経済産業省が2018年に出した警告は、その年が過ぎた今どうなったのか。ここを確かめたくて検索する方が多いので、分かっていることを整理します。
まず、2025年に大きな障害が一斉に起きる、という形では現れませんでした。古いシステムは2026年になっても動いています。崖は落ちるものではなく、期限が守れないという形で少しずつ表に出てきた、というのが実際のところです。
その「守れなかった期限」が、前の章で見た自治体システム標準化の数字です。2025年度末までに終える約束だったものが、1万13システム・1,015団体で間に合いませんでした。理由の中心は技術ではなく、作業をする人が足りなかったことです。動かすべきシステムの数に対して、動かせる技術者の数が足りない。予測されていた通りのことが、損失額ではなく遅延という形で出ています。
そして議論の的は、2025年から2035年へ移りました。富士通のメインフレーム保守が2035年度末に終わり、そこから先は「古いまま使い続ける」という選択肢そのものが無くなります。2025年の崖は、期限が10年先に延びただけで、なくなったわけではありません。
大阪府警の件が示しているのは、その10年が余裕ではないということです。1回のベンダー選定を誤っただけで3年が消えました。同じことをあと2回やれば、2035年に届きます。
メインフレーム移行はなぜ難しいのか

「古いシステムを新しいシステムに入れ替えるだけ」と思われがちですが、メインフレームからの移行は技術的に極めて困難な作業です。
1つ目は、業務ロジックのブラックボックス化。50年間にわたって積み重ねられた業務ルールや例外処理は、ドキュメントが残っていないことが多い。「なぜこの処理がここにあるのか」を誰も説明できない状態で、それを別のシステムに正確に移し替えなければなりません。
2つ目は、プログラミング言語の壁。メインフレーム上のシステムの多くはCOBOLという古い言語で書かれています。COBOLを読める技術者は年々減少しており、若手エンジニアがCOBOLのコードを解読して現代の言語(Javaなど)に書き直すのは、外国語の古文書を翻訳するような作業です。
3つ目は、テスト工数の爆発。人事管理システムには、給与計算、異動履歴、勤怠管理など膨大な機能があります。すべての機能が旧システムと同じ結果を出すことを確認するテストだけで、開発と同等かそれ以上の工数がかかります。
大阪府警の人事システムは今どうなっているのか
電算システムが契約解除を公表したあと、大阪府警は旧メインフレームの人事システムをそのまま使い続けている状態です。移行計画は再検討中とされていますが、具体的な再入札のスケジュールは公表されていません。
富士通のメインフレーム保守が2035年度末に終了することを考えると、猶予はあと約9年です。しかし、今回の失敗で少なくとも3年が失われました。次のベンダー選定、要件定義、開発、テスト、移行を考えると、9年は決して余裕のある期間ではありません。
大阪府警だけの問題ではありません。全銀システムも2027年の次期システム稼働に向けてメインフレームからの全面移行を進めています。国が進める自治体システム標準化では、2025年度末の期限に間に合わなかった自治体が1,015団体、全1,788団体の56.8%にのぼりました。
日本の公共機関が抱えるレガシーシステム問題は、「安く済ませよう」という調達の発想を変えない限り、同じ失敗が繰り返されます。50年動いたシステムを安全に移行するには、それに見合った予算・技術力・時間が必要です。「予定価格の6割」で買えるものではありません。
よくある質問
Q. 電算システムの入札参加停止は、まだ続いているのですか?
終わっています。大阪府が決めた停止の期間は2025年5月22日から2026年5月21日までの1年間で、期限が来たことで解けました。解除を知らせる発表は出ない仕組みなので、いま検索すると「1年間の停止」という2025年5月の記事ばかりが出てきますが、それは当時の状態です。
Q. 大阪府警は、あらためて入札をやり直したのですか?
2026年8月の時点では公表されていません。大阪府警察本部の発注予定のページにも、大阪府の入札公告にも、人事管理システムの後継にあたる案件は出ていません。
Q. 電算システムに損害賠償は請求されたのですか?
公表された裁判や賠償請求は確認できません。電算システムホールディングスが2026年2月に出した決算短信にも、2026年3月に提出した有価証券報告書にも、この契約解除を名指しした訴訟・賠償の記載は見当たりませんでした。京都市の件のように後から裁判になる例はあるので、今後変わる可能性はあります。
Q. 電算システムはどんな会社ですか?
岐阜県岐阜市に本社を置く、1966年創業のシステム開発会社です。自治体向けの基幹システム開発、コンビニ収納などの代行、データセンター運営が主力で、東証プライムに上場する電算システムホールディングスの傘下にあります。Google Cloudの国内パートナーでもあり、規模の小さい会社ではありません。
Q. 大阪府警の人事システムは、いま止まっているのですか?
止まっていません。1970年代から動いている元のメインフレームをそのまま使い続けています。新しいシステムに移れなかっただけで、業務が停止したわけではありません。ただし富士通のメインフレーム保守が2035年度末に終わるため、いつかは移す必要があります。
Q. 「2025年の崖」は、結局起きたのですか?
一斉に障害が起きるという形では起きていません。代わりに、期限が守れないという形で出ています。自治体システム標準化では、2025年度末に間に合わなかったシステムが1万13件、自治体の数で1,015団体(全体の56.8%)ありました。原因の中心は技術ではなく技術者の不足です。
更新履歴
- ▸2026年8月19日:入札参加停止が2026年5月21日で満了していることを追記(大阪府の発表より)。撤退後の経過をまとめたセクションと、よくある質問を新設。デジタル庁が2026年6月30日に公表した自治体システムの移行遅れの実測値に差し替え(「約1割が困難と回答」→ 1万13システム・1,015団体)。京都市の裁判が双方の控訴で継続中であることを追記。「2025年の崖」の現在をまとめたセクションを追加。
- ▸2026年7月7日:時系列と構成を整理
- ▸2026年3月23日:初版公開
参照元
- • 日経クロステック「大阪府警が50年来のレガシー移行 安値ベンダー選定も遅延・撤退で頓挫」(2026/1/30)
- • 大阪府「入札参加資格者の入札参加停止について」(2025/5/23)
- • 電算システムホールディングス「システム開発案件の契約解除についてのお知らせ」(適時開示)
- • NJSS入札情報「新人事管理システム開発運用保守業務」
- • 日経クロステック「富士通メインフレーム撤退と残存台数」
- • 経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服~」(PDF)
- • 経産省「レガシーシステムモダン化委員会 総括レポート」(2025/5/28)
- • 全銀ネット「次期全銀システム基本方針」(PDF)
- • デジタル庁「移行支援期間における特定移行支援システム数について(令和8年3月末時点)」(2026/6/30)
- • 日経クロステック「自治体システム標準化、SE不足で1万システム超が期限に間に合わず」(2026/6/30)
- • 日経クロステック「基幹刷新失敗を巡る京都市とシステムズの争い、6年越しで出た一審判決」(2024/5/30)
- • 電算システムホールディングス「有価証券報告書 第5期(2025年12月期)」(2026/3/24提出)

Backend Engineer / AWS / Django / Go