Sakana AIの新AI「Fugu」とは、複数のAIを束ねる日本の実力
日本のAI企業Sakana AIが、複数のAIを自動で束ねて使い分ける新サービス「Fugu」と上位版「Fugu Ultra」を公開しました。ClaudeやChatGPTといった海外の最先端AIに匹敵する性能をうたい、しかも特定国の輸出規制で止まる心配が少ないのが特徴です。Sakana AIとは何か、他のAIと何が違うのかを、専門知識ゼロでもわかるよう整理します。

堀川 慎
Backend Engineer / AWS / Django / Go
日本のAI企業Sakana AIが、複数のAIを自動で束ねて使い分ける新サービス「Fugu」と上位版「Fugu Ultra」を公開しました。ClaudeやChatGPTといった海外の最先端AIに匹敵する性能をうたい、しかも特定国の輸出規制で止まる心配が少ないのが特徴です。Sakana AIとは何か、他のAIと何が違うのかを、専門知識ゼロでもわかるよう整理します。
2026年6月22日、東京のAI企業Sakana AI(サカナエーアイ)が、新しいAIサービス「Sakana Fugu(フグ)」と上位版「Fugu Ultra」を一般公開しました。一番の特徴は、1つの賢いAIに全部を任せるのではなく、複数のAIを自動で束ねて使い分けるという発想にあります。料理にたとえるなら、何でも自分で作る専属シェフではなく、注文ごとに「これはあの店がうまい」と最適な厨房へ振り分けてくれる案内役のような仕組みです。
Sakana AIは、上位版のFugu Ultraが、海外の最先端AIである「Fable」や「Mythos」(いずれもClaudeを開発するAnthropic社の最上位AI)に匹敵する性能を持つと主張しています。しかも「特定の国の輸出規制で急に止まる心配が少ない」点を売りにしています。これは大げさな言い回しではありません。実際にその「最強AI」は、つい先日に米政府の指示で世界中から消えたばかりだからです。
この記事では、Sakana AIとはどんな会社なのか、Fuguは何が新しいのか、そしてよく聞くClaudeやChatGPT(Codex)とは何が違うのかを、AIに詳しくない人でも「人に説明できる」ところまで整理します。一本読めば、いまの生成AIの勢力図のなかでSakana AIがどこに立っているかがわかるはずです。
Sakana AIとは何か。東京発、世界が注目するAI企業
Sakana AIは、2023年に東京で創業されたAI企業です。「Sakana(魚)」という名前には、小さな魚が群れをなして大きな力を生む、という発想が込められています。1つの巨大なAIを作るのではなく、小さく賢いものを組み合わせて強くする、という同社の思想を表したネーミングです。
創業者の顔ぶれが、まず注目を集めました。中心人物のデビッド・ハ氏は、GoogleのAI研究部門でユニークな研究を発表してきた人物です。もう1人のライオン・ジョーンズ氏は、いまの生成AIブームの土台になった「Transformer(トランスフォーマー)」という基盤技術を生んだ2017年の論文の共同著者の1人です。つまり、ChatGPTもClaudeも、その大もとをたどればジョーンズ氏らの発明にたどり着く、という超大物が日本に拠点を構えたわけです。
資金面でも国内外から期待を集めています。報道によれば評価額は約26.5億ドルに達し、国内の非上場スタートアップとして最高クラスの評価を受けています。出資には三菱UFJ・三井住友・みずほの3メガバンクや伊藤忠商事、野村、そして通信大手のKDDI、さらに半導体大手のNvidiaまで名を連ねています。海外ではGoogleもSakana AIと提携しています。
技術的な看板は2つあります。1つは進化的モデルマージ。これは、すでにある複数のAIを生き物の進化のように「掛け合わせて」、新しい能力を持つAIを作り出す手法です。もう1つはAI Scientist。研究のアイデア出しから実験、論文執筆までをAI自身に任せる試みです。どちらも「1つの巨大なAIをひたすら大きくする」という海外主流の路線とは違う、独自のアプローチです。
日本のユーザーにとって身近な動きとしては、2026年3月に無料のAIチャット「Sakana Chat」を公開しています。海外製AIが持ちがちな偏りを日本向けに調整した「Namazu(ナマズ)」というAIを搭載したもので、こちらは別記事で詳しく解説しました。今回のFuguは、その路線の延長線上にある、同社の本気の一手だと言えます。
Fuguとは何か。AIを「束ねて指揮する」AI
FuguをひとことでいうとAIを束ねる指揮者です。Sakana AI自身は「1つのAPI(窓口)でアクセスできる、まるごとのマルチエージェント・システム」と説明しています。マルチエージェントとは「複数のAIが分担して働く」という意味で、エージェントは「自分で考えて作業するAI」のことです。
ふつう、私たちがAIを使うときは「このAI1つ」を選んで全部の作業を頼みます。文章も翻訳もコードも、同じ1つのAIにやらせるわけです。Fuguの発想はここが違います。利用者はFuguという1つの窓口に頼むだけ。あとはFuguがタスクの中身を見て、どのAIにどの作業を振るかを自分で判断し、分担させて、結果をまとめて返す。オーケストラの指揮者が、この場面はバイオリン、ここは管楽器、と指示を出して1つの曲に仕上げるのに似ています。指揮者自身は楽器を弾きませんが、誰に何をさせるかを知っているわけです。
しかもFuguが束ねる「楽団員」は、自社のAIだけではありません。世界中の公開モデル(中身が公開されているAI)や非公開モデル(ChatGPTのような中身非公開の商用AI)も組み合わせの候補に含めるとしています。創業者のデビッド・ハ氏は、社内ですでに研究やコーディングにFuguを使っていると明かしています。
Introducing Sakana Fugu: A full multi-agent orchestration system accessible via a single model API. Our 'Fugu Ultra' model matches the performance of Fable and Mythos, delivering frontier capability without the risk of export controls.
— hardmaru (@hardmaru) June 2026
提供は通常版のFuguと、高性能版のFugu Ultraの2種類です。それぞれの想定用途を整理すると、次のようになります。
| 項目 | Fugu(通常版) | Fugu Ultra(高性能版) |
|---|---|---|
| 想定用途 | 日常の作業 (チャット、コーディング補助) | 多段階の難しい問題 (AI研究、セキュリティ分析、学術調査) |
| 重視するもの | 性能と応答速度のバランス | 最大性能 |
| 性能の位置づけ (自社主張) | 最先端クラス | Fable・Mythosに匹敵 |
| 提供形態 | Sakana AIのコンソール(管理画面)から、一般提供を開始 | |
ねらいは、利用者を「裏側の複雑な仕組み」から解放することにあります。本来なら、用途ごとに何種類ものAIを契約し、どれを使うか自分で選ぶ手間がかかります。Fuguはその判断をまるごと肩代わりし、利用者は1つの窓口に頼むだけでよい、という設計です。仕組みは複雑でも、使う側の体験は1つのAIを使うのと変わらない、というのが売りです。
ただの「振り分け」ではない。Fuguの正体
ここまで読むと、当然こう思うはずです。「他社のAIを組み合わせるだけなら、個人でもできるのでは?」と。実際、CrewAIやOpenRouterのような道具、あるいは自作のルーターで複数のAIを束ねている人はたくさんいます。ただ束ねるだけなら、何の魅力もありません。Fuguに価値があるかどうかは、まさにこの一点にかかっています。先に結論を言うと、Fuguは「ただのルーター」ではありません。
まず、振り分け役(指揮官)の中身が違います。Fuguの指揮官は、単純な「if〜then」のルール分岐ではなく、Sakana AIが強化学習で訓練した約70億パラメータの専用モデル「Conductor」です。誰にどの作業を振り、いつ「もう一度考え直させる」かといった協調のしかたを、人手の手順書ではなくモデル自身が学習で身につけているのがポイントです。
土台には同社の研究があります。複数のAIを何ターンもかけて束ねる「TRINITY」、そして「AB-MCTS」——複数の最先端AIを協調させ、試行錯誤させながら答えを探す、Sakana独自の探索アルゴリズムです(難問ベンチマークARC-AGI-2で成果を出しています)。各モデルにはThinker(考える役)・Worker(手を動かす役)・Verifier(検算する役)といった役割を、その場で動的に割り当てます。
これが、「軽量なモデルでも高いスコアが出る」の種明かしです。モデルを大きくして賢くするのではなく、答えを出すとき(推論時)に、調整・検算・やり直しへ計算を多めに注ぐ。いわゆる「テスト時スケーリング」と呼ばれる発想です。一発勝負で当てにいくのではなく、賢く何度も解かせ、互いに検算させて答えの質を底上げする。Fuguは自分自身を入れ子のように呼び出し、最初の答えが甘ければ修正の工程を回すこともできます。
個人の自作や既存のフレームワークの多くは、人が手で組んだ固定の手順で他社のAIを呼びます。Fuguの違いは、その「誰にどう振るか」を人手で書くのではなく、学習済みのモデルと探索アルゴリズムに任せている点です。ここがSakana AIの主張する「ここだけ」の中身であり、進化的モデルマージやAI Scientistといった同社の独自路線とも地続きです。
ただし、誤解してはいけない点もあります。Sakana AIは「GPTやClaudeに正面から対抗する巨大な対話モデル」を自前で作ったわけではありません。公式も「フロンティアモデルは1つも訓練していない」と認めています。作ったのは中身の天才ではなく、天才たちを束ねる"指揮官"の知能のほうです。そして、学習で振り分けを賢くする発想自体は他社にも追随可能で、この優位(堀)がどこまで続くかは未知数です。それでも、「ただ束ねるだけ」とは明確に一線を画す中身であることは、押さえておく価値があります。
ClaudeやChatGPTと何が違うのか
ここがいちばん「人に説明したくなる」ところです。まず前提として、よく名前を聞く2つのAIが何者かを押さえておきます。
Claude(クロード)は、米国のAnthropic(アンソロピック)社が作っているAIです。長い文章のやり取りや、コードを書く・直す作業、長時間かかる複雑な作業に強いことで知られます。Anthropicは用途に応じて段階の違う複数のClaudeを用意しており、現在の最上位が「Fable(フェイブル)」、その上に限定提供の「Mythos(ミソス)」があります。日常の主力は、最高峰のOpus(オーパス)、性能と速さのバランスがよいSonnet(ソネット)、高速・低コストのHaiku(ハイク)という3段構成です。エンジニア向けには「Claude Code」というコーディング道具も人気です。
ChatGPT(チャットジーピーティー)は、米国のOpenAI(オープンエーアイ)社のAIです。文章生成全般で広く使われており、コード作成に特化した「Codex(コーデックス)」というサービスも提供しています。Codexは、ざっくり言えば「OpenAI版のコード書きAI」で、Claude Codeのライバルにあたります。両者の実力差を実際の脆弱性で比べた検証は、別記事で詳しく扱いました。
この2社に共通するのは、「自社で作った、1つの優秀なAIを使ってもらう」という形です。中身は1つのモデル(賢さの本体)で、それを大きく・賢く育てていく路線です。これに対してFuguは、他社のものも含めた複数のAIを束ねて、その都度いちばん向いたものに振り分けるという形をとります。土俵が一段ずれているわけです。3者の違いを表にすると、次のようになります。
| サービス | 作っている会社 | 基本の考え方 | 得意なこと |
|---|---|---|---|
| Claude | Anthropic(米) | 自社の1モデル群 (最上位Fable、実務はOpus / Sonnet / Haiku) | 長い対話、コード、長時間の作業 |
| ChatGPT・Codex | OpenAI(米) | 自社の1モデル群 (Codexはコード特化) | 文章生成全般、コード生成 |
| Sakana Fugu | Sakana AI(日) | 複数のAIを束ねる 「指揮官」型 | 用途に応じて最適なAIへ自動で振り分け |
もう少しかみくだくと、こうなります。ClaudeとChatGPTは「専属シェフ」です。和食も中華もイタリアンも、1人の腕のいいシェフが全部作る。腕が上がればメニュー全体の質が上がります。一方Fuguは「優秀な案内役」です。自分では料理を作らないけれど、「寿司ならあの店、ラーメンならこの店」と最適な厨房へ案内して、まとめて一卓に並べてくれる。どちらが良い悪いではなく、役割が違うのです。
AIを束ねて使い分けるという発想自体は、Fuguが初めてではありません。OSS(無料で公開されているソフト)のAIエージェントが本家にどこまで迫れるかを実測した記事や、開発ツール各社の動きをまとめた記事でも、似た流れを追ってきました。Fuguはその発想を、専門知識のいらない1つの商用サービスとして仕立て直した点に新しさがあります。
Claudeの「サブエージェント」と同じではないのか
鋭い疑問です。実はClaudeにも、役割の違う複数のAIに作業を分担させるサブエージェントという仕組みがあります(エンジニア向けのClaude Codeや、業務用のエージェント機能など)。「複数のAIが分担して働く」という一点だけ見れば、Fuguとよく似ています。
決定的に違うのは、束ねる相手の幅です。Claudeのサブエージェントは、分担するメンバーが基本的に全員Claude(同じAnthropic製のAI)です。1つの会社の中で、軽いモデルと賢いモデルを役割分担させているイメージです。対してFuguは、会社の垣根を越えて束ねます。報道によれば、現在のFuguはOpenAIのGPT-5.5、AnthropicのClaude Opus、GoogleのGemini 3.1 Pro、各種のオープンモデル、そしてFugu自身(入れ子のように自分を呼ぶ)などを候補として抱えています。
この差が、前章の「止まらない」に直結します。Claudeのサブエージェントは全員がClaudeなので、Anthropicが止まれば一蓮托生です。Fuguは1社が止まっても、別の会社のAIに振り直せる。同じ「マルチエージェント(複数AIの分担)」でも、1社の中で分けるか、複数社をまたいで分けるかという根本が違うわけです。
使い勝手の面でも工夫があります。Fugu自身は「他のAIを呼ぶように訓練された1つのモデル」で、外からは普通の1モデルのように振る舞います。しかもChatGPTと同じ形式のAPI(OpenAI互換)で呼べるため、既存の道具にそのまま差し込めます。中身は会社をまたいだ混成チーム、窓口は1つ、という設計です。
世界の最先端AIと比べてどうなのか
「最先端AI」は、業界ではフロンティアモデルと呼ばれます。性能の最前線にいる一群のAIのことで、AnthropicのFable・Mythos、OpenAIのChatGPT最上位版(GPTシリーズ)などが代表格です。Sakana AIは、Fugu Ultraがこの最前線、とくにAnthropicのFable・Mythosに匹敵すると主張しています。
ここで冷静に押さえておきたいことがあります。「匹敵する」というのは、いまのところSakana AI自身による主張だという点です。AIの性能はベンチマーク(共通の試験問題で点数を競う仕組み)で比べるのが一般的ですが、誰がどんな条件で測ったかによって結果は大きく変わります。自社発表の「匹敵」は、第三者が同じ条件で再現して初めて裏が取れる、と考えるのが安全です。
この「点数の見方」については、過去にも注意を促してきました。たとえば、ある最上位AIが数学の未解決問題を「解いた」と話題になったとき、公式テストでは0点だった、という検証もあります。発表の見出しと、実際に再現できる実力は、必ずしも一致しません。Fuguについても、独立した検証が出そろうまでは「自社主張」として受け止めるのがフェアな姿勢です。
実際、Sakana AIが公開したベンチマークを見ると、Fugu UltraはFable 5と肩を並べてはいるものの、全勝というわけではありません。主な数値を並べると次のようになります(いずれも数字が大きいほど高成績)。
| テスト(測る能力) | Fugu Ultra | Fable 5 |
|---|---|---|
| SWE-Bench Pro(実務的なコード修正) | 73.7 | 86.0 |
| Humanity's Last Exam(難問試験) | 50.0 | 53.3 |
| Terminal Bench 2.1(端末での作業) | 82.1 | 80.4 |
| LiveCodeBench(コード生成) | 93.2 | 89.8 |
| CharXiv Reasoning(図表の読解) | 86.6 | 86.1 |
勝っている項目もあれば、コード修正の代表的な指標であるSWE-Bench ProのようにFable 5が大きく上回る項目もあります。Sakana AI自身も「打ち負かす」とは言わず、あくまで「肩を並べる」と慎重に表現しています。最前線に届く実力はありそうだが、項目ごとに得意・不得意がある——というのが、いまのところフェアな読み方です。
とはいえ、Fuguの面白さは単純な点数勝負だけにあるのではありません。「中身を1社の1モデルに縛られない」という設計そのものが、フロンティアの世界に別の軸を持ち込んでいます。次の章で、その意味を掘り下げます。
料金はいくらか。内部でOpusを使うなら割高では?
性能の次に気になるのはお金の話です。そしてここで、鋭い人ほどこう疑います。「内部でOpusのような高いAIを使っているなら、その料金にSakanaの取り分が乗って、結局割高になるのでは?」と。先に料金表を見たうえで、この疑問に答えます。ClaudeやChatGPTと同じく、Fuguにも「定額(サブスク)」と「使った分だけ(従量課金)」の2本立てがあります。
| プラン | 料金(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| Standard | 約20ドル/月 | 個人の日常使い。FuguとFugu Ultraの両方 |
| Pro | 約100ドル/月 | 使用量が約10倍 |
| Max | 約200ドル/月 | 使用量が約20倍 |
| 従量課金(API) | Fugu Ultra:100万トークンあたり入力5ドル・出力30ドル | 企業・開発者・重い用途向け |
入口の約20ドルは、ChatGPT PlusやClaude Pro(いずれも月20ドル前後)と同水準です。では「割高では?」への答えです。鍵は積み増し課金がないこと。内部で複数のAIが合議・検算で同時に動いても、料金は二重・三重にはならず、実際に使われた最上位モデル1つ分の単価しか課金されません。5つのAIを走らせても「5モデル分」にはならない、という意味です。
ただし、ここは正直に書きます。Fugu Ultraの単価(100万トークンあたり入力5ドル・出力30ドル)は、内部で使う最上位級モデル(Opusなど)とほぼ同水準です。つまり「部品の合計より圧倒的に安い」のではなく、「最前線の結果を"ほぼ1モデル分の請求"で受け取れる」のが正確な理解です。しかも前章のとおり、軽量モデルの合議とテスト時スケーリングで底上げするため、必ずしも毎回いちばん高いモデルを呼ぶわけではありません。最上位を呼ばずに済んだぶんは安く上がります。
逆の注意点もあります。テスト時スケーリングは「何度も解かせて検算する」設計なので、難しい用途では処理するトークンが増え、そのぶんコストが伸びることがあります。料金の上限を読みづらい場面では、まず軽いタスクで実際の請求額を測るのが安全です。まとめると、Fuguの価格面の売りは「いちばん安い」ではなく、「1社に縛られず、最前線の結果を、1本の分かりやすい請求で」というところにあります。
中身のAIは見えるのか、選べるのか
「便利そうだが、いま自分の質問に何のAIが使われたのか分からないのは不安だ」——これも当然の疑問です。結論から言うと、リアルタイムの可視性は限定的で、その代わりに事前の"締め出し"はできる、という設計になっています。
まず、どのモデルをいつ呼ぶかという振り分け(ルーティング)の中身は、設計上は非開示です。Sakana AIは「どう選び、どう組み合わせるか」を自社の競争力の源と位置づけており、「今回の回答はGPTを使った」といった内訳が、その都度ユーザーに見えるわけではありません。
一方で、実務でいちばん需要のある「特定のAIを使わせない」という制御はできます。Fuguはデータ保護やコンプライアンス(法令順守)の要件に合わせて、特定の提供元やモデルを候補プール(使う候補の一覧)からあらかじめ除外できると説明しています。たとえば「この国の企業のAIは社内ルールで使えない」「このベンダーは外したい」といった要望には、最初にプールから外しておくことで対応できる、というわけです。
つまり、「今この瞬間に何が動いたか」を逐一見せる透明性ではなく、「使ってほしくないものを土俵に上げない」コントロールが提供されている、と理解するのが正確です。なお、現在の候補プールには前述のGPT-5.5・Claude Opus・Gemini 3.1 Proやオープンモデルが含まれますが、AnthropicのFable 5やMythosは一般提供されていないため、そもそも候補に入っていません。「匹敵する」とうたいながら、肩を並べる相手そのものは中身に使っていない——という点も、押さえておきたいところです。
なぜ「日本発」「束ねる設計」が効くのか
ここからは事実をふまえた筆者の見解です。Fuguの最大の価値は、性能の数字よりも「1社・1国に依存しない」という一点にあると考えています。理由は、つい先日に起きた出来事が示しています。
2026年6月、Anthropicがこれまでで最強として公開した最上位AI「Fable 5」と、その上位版「Mythos 5」が、公開からわずか3日後に世界中で使えなくなりました。性能不足でも障害でもありません。米政府が国家安全保障を理由に提供停止を命じ、Anthropicがそれに従ったためです。有料で使っていた利用者も、日本の企業も、例外なく止まりました。この一件は当サイトでも速報しました。
この文脈で、Fuguの売り文句「輸出規制で止まるリスクなしに最先端の力を届ける」が効いてきます。創業者のデビッド・ハ氏は、より踏み込んだ言い方をしています。「1社のモデルに国の重要インフラを頼るのは大きなリスクだ。最近の輸出規制が示したように、最上位モデルへのアクセスは一夜にして消えうる」。Fuguは中身のAIを丸ごと差し替えられる設計のため、特定の1社や1国が止まっても、別の楽団員に弾かせて演奏を続けられる、というわけです。
Human intelligence is fundamentally a collective intelligence. We solve complex problems by participating in a vast cultural network that builds upon ideas across generations. I believe the strongest AI systems will become a collective intelligence, too.
— hardmaru (@hardmaru) June 2026
この発想には、当のSakana AI自身の歴史も重なります。海外製AIの偏りを日本向けに直した「Namazu」も、米中どちらかのAIに丸ごと依存することへの違和感が出発点でした。さらに、出資企業にKDDIのような国内の通信インフラ企業が並ぶことも、「重要インフラを外国の1社に握らせたくない」という思惑と無縁ではないでしょう。AnthropicがOpenAIとの摩擦の末に米政府から締め出された一連の動きを見ても、最先端AIがますます国家の道具になりつつあるのは確かです。
ここで意地悪な問いも立てておきます。「では、性能のいいフロンティアモデルが軒並み使えなくなったら、結局Fuguも同じように行き詰まるのでは?」——半分は当たっています。GPT・Claude・Geminiといった商用の最上位が一斉に止まれば、Fuguの手札も痩せ、性能は確実に落ちます。Fuguは「絶対に止まらない魔法」ではありません。ただし、ふつうに1つのAIだけを使う場合と違うのは2点です。1つは、複数の会社に分散しているぶん「全社が同時に止まる」事態は、1社停止より起こりにくいこと。もう1つは、最後の砦として中身が公開されたオープンモデルと、自社のモデル(Namazu系)が残ることです。すでに世界中へ配布されたオープンモデルは、輸出規制で一夜にして消える類のものではありません。つまりFuguの本質は「決して止まらない」ではなく、「全部が一度には止まりにくく、最低ラインを自前で確保できる」という、現実的な保険なのです。
もちろん、束ねる設計にも弱点はあります。複数のAIを経由するぶん、応答が遅くなったり、コストがかさんだりする可能性はあります。指揮者がどれだけ的確に振り分けられるか、その「目利き」の質がそのまま使い勝手を左右します。それでも、「いちばん速い1台」より「止まらない仕組み」を選びたい場面は、企業や行政を中心に確実にあります。日本発でその選択肢を出してきたこと自体に、私は意味があると思っています。
結局、どう使い分ければいいのか
最後に、実際に手を動かす人向けの整理です。今日からFuguに乗り換えるべきか、と問われれば、答えは「用途しだい」です。いまの時点では、次のように考えると迷いにくいはずです。
個人の日常使いなら、まずは慣れたAIで十分です。文章の下書きや調べもの、ちょっとしたコードなら、すでに使っているClaudeやChatGPTで困りません。わざわざ新しい窓口に乗り換える必要は、いまのところ薄いです。
複数のAIを業務で使い分けている人・チームなら、Fuguは試す価値があります。「この処理はAのAI、あの処理はBのAI」と手動で振り分けている手間を、1つの窓口にまとめられる可能性があるからです。まずは小さな業務で、応答速度とコスト、振り分けの賢さを実際に測ってみるのがおすすめです。自社発表の「匹敵」を鵜呑みにせず、自分の仕事で再現できるかを基準にしましょう。
「止まらないこと」が重要な企業・行政なら、設計思想ごと検討する意味があります。1社・1国への依存を避けたい、海外規制で急に使えなくなる事態を避けたい——そうした要件があるなら、Fuguの「中身を差し替えられる」という性質は、性能の数字以上に効いてきます。Sakana AIが日本企業であることも、データの扱いや調達の面で評価点になりえます。
まとめると、Fuguは「いちばん賢い1台」を競う土俵ではなく、「賢いAIたちをどう束ねて、止まらず使い続けるか」という別の土俵に立った挑戦です。ClaudeやChatGPTと正面からぶつかるというより、その上に1枚かぶせる発想に近い。専属シェフが要らなくなるわけではなく、優秀な案内役という新しい職業が生まれた、と捉えると腑に落ちます。日本のSakana AIがその先頭に立ったことは、これからの生成AIの勢力図を読むうえで、覚えておいて損のない一手です。
よくある質問
Sakana AIはどこの会社ですか
東京に拠点を置く日本のAI企業です。GoogleでAI研究をしていたデビッド・ハ氏と、現在の生成AIの土台になった「Transformer」という技術の共同開発者ライオン・ジョーンズ氏らが2023年に創業しました。評価額は約26.5億ドルとされ、国内の非上場スタートアップとして最高クラスの評価を受けています。出資企業には3メガバンクや伊藤忠、KDDI、Nvidiaなどが名を連ねます。
Fuguは何がすごいのですか
1つの賢いAIに全部やらせるのではなく、複数のAIを自動で使い分ける「指揮官」のような仕組みであることです。利用者は1つの窓口(API)に頼むだけで、Fuguが内部で最適なAIを選び、作業を振り分けて結果をまとめます。通常版のFuguと高性能版のFugu Ultraがあり、Ultraは海外の最先端AIに匹敵する性能をうたっています(ただし現時点では自社主張です)。
ClaudeやChatGPTと何が違うのですか
ClaudeやChatGPTは「自社で作った1つの優秀なAI」を使ってもらう形です。一方Fuguは、他社のものも含めた複数のAIを束ねて、その都度いちばん向いたものに振り分ける形です。料理にたとえると、ClaudeやChatGPTは何でも作る専属シェフ、Fuguは料理ごとに最適な店へ案内する案内役に近い、と考えるとわかりやすいです。役割が違うので、優劣を一概には比べられません。
なぜ「日本発」であることが注目されているのですか
最先端AIは特定の国の規制で急に使えなくなることがあるからです。実際にAnthropicの最上位AI「Fable 5」「Mythos 5」は2026年6月、米政府の指示で公開3日後に全世界で止まりました。Fuguは中身のAIを差し替えられる設計のため、1社・1国への依存を避けられます。データの扱いや調達の面でも、国内企業であることが評価点になりえます。
Fuguの料金はいくらですか
個人向けの定額プランは月額約20ドル(Standard)から始まり、使用量に応じてPro(約100ドル)、Max(約200ドル)があります。いずれもFuguとFugu Ultraの両方を使えます。入口の約20ドルはChatGPT PlusやClaude Proと同水準です。企業や開発者向けには使った分だけ払う従量課金(API)もあり、内部で複数のAIが同時に動いても料金は重複せず、実際に使われた最上位モデル1つ分しか課金されません。
使われるAIは選べますか。特定の国や会社のAIを外せますか
どのモデルがいつ使われるかの振り分けは設計上非開示で、リアルタイムには見えません。ただし、データ保護やコンプライアンスの要件に合わせて、特定の提供元やモデルをあらかじめ候補プールから除外することはできます。「この国・この会社のAIは使いたくない」という要望には、最初にプールから外す形で対応できる設計です。
Claudeのサブエージェントと何が違うのですか
Claudeのサブエージェントは、分担するメンバーが基本的に全員Claude(同じAnthropic製)です。1社の中で軽いモデルと賢いモデルを使い分ける形です。Fuguは会社の垣根を越えて、GPT-5.5(OpenAI)、Claude Opus(Anthropic)、Gemini 3.1 Pro(Google)、オープンモデル、自社モデルなどを束ねます。だから1社が止まっても別の会社のAIに振り直せる、という違いがあります。
内部でOpusなどを使うなら、結局割高になりませんか
積み増し課金がない点がポイントです。内部で複数のモデルが合議・検算しても、請求は実際に使われた最上位モデル1つ分だけで、「5モデル分」にはなりません。Fugu Ultraの単価(100万トークンあたり入力5ドル・出力30ドル)はOpusなど最上位級とほぼ同水準で、「部品の合計より圧倒的に安い」というより「最前線の結果をほぼ1モデル分の請求で受け取れる」のが正確です。ただし何度も解かせて検算する設計のため、難しい用途ではトークン消費が伸びてコストがかさむことがあります。
ただ他社のAIを組み合わせているだけではないのですか
振り分け役そのものが違います。Fuguの指揮官は、Sakana AIが強化学習で訓練した約70億パラメータの専用モデル「Conductor」で、誰にどう振るかを人手の手順ではなく自分で学習しています。土台には複数AIを協調させる独自の探索アルゴリズム「AB-MCTS」やTRINITYがあり、各モデルに考える役・実行役・検算役を動的に割り当てます。CrewAIや自作ルーターの多くは人手の固定手順なので、そこが違いです。ただしSakana AI自身は対話用のフロンティアモデルは作っておらず、作ったのは「指揮官」の知能だという点は押さえておきましょう。
参照元
- ・ 窓の杜 - Sakana AI、「Fable 5」や「Mythos」に匹敵するAIモデルをリリース、「Fugu」「Fugu Ultra」
- ・ Sakana AI - Sakana Fugu: One Model to Command Them All(公式)
- ・ Sakana AI - Sakana Fugu: Multi-agent System as A Model(公式)
- ・ VentureBeat - Sakana achieves frontier performance with new Fugu multi-model system
- ・ AI News - Mitigating vendor lock-in with Sakana AI Fugu multi-agent models
- ・ Wikipedia - Sakana AI(会社概要・創業者・資金調達)
- ・ VentureBeat - Sakana AI unveils Evolutionary Model Merge
- ・ Sakana Fugu - Pricing(公式・サブスク/従量課金)
- ・ sakutto - Sakana Fugu: Fable 5との性能比較・価格
- ・ Sakana AI - AB-MCTS(推論時スケーリングと集合知)公式
- ・ MarkTechPost - Sakana Fugu: 学習済みオーケストレーターと差し替え可能なモデルプール
- ・ Startup Fortune - フロンティアモデルを1つも訓練せずFable/Mythosに匹敵
- ・ David Ha(@hardmaru)- Introducing Sakana Fugu
更新履歴
- 2026年6月23日: 初版公開(6月22日のSakana Fugu一般提供開始を受けて作成)
- 2026年6月23日: 追記改訂。料金・プラン、Claudeのサブエージェントとの違い、依存リスクの実際、使用モデルの可視性と除外(オプトアウト)、Fable 5との実ベンチ比較を追加
- 2026年6月23日: 再構成。読者が知りたい順に章を並べ替え。新章「ただのルーターではない・Fuguの正体」(学習済みオーケストレーターConductor、AB-MCTS、テスト時スケーリング、CrewAI等との差)を追加し、料金章を性能の直後へ移動して「内部でOpusなら割高では?」に正直に回答