【快挙】さくらインターネット、ガバメントクラウドに正式採択
さくらインターネットの「さくらのクラウド」がガバメントクラウドに正式採択。305項目の技術要件を全て達成し、AWS・Azure・GCP・Oracleに並ぶ国産初の認定。
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kkm
Backend Engineer / AWS / Django
2026年3月27日、デジタル庁(日本政府のデジタル化を推進する省庁)は、さくらインターネット(東証プライム上場の国内クラウド事業者)が提供する「さくらのクラウド」を、ガバメントクラウド(政府・自治体が共通で使うクラウド基盤)に正式採択したと発表しました。国産クラウド事業者としては初めての採択です。
デジタル庁が定める305項目すべての技術要件への適合が確認されました。さくらインターネットは令和5年度(2023年度)に条件付きで採択されていましたが、約2年半をかけて全要件を達成し、令和8年度(2026年度)の正式採択に至りました。複数年度にわたる採択も国産事業者としては初です。
ガバメントクラウドとは何か
ガバメントクラウドは、デジタル庁が2021年から運営している、政府機関や全国の自治体が共通で利用するクラウド基盤です。住民基本台帳、税務、福祉など20の基幹業務システムを標準化し、クラウドへ移行することで、行政システムの効率化・セキュリティ強化・コスト削減を目指しています。
これまでガバメントクラウドとして認定されていたのは、AWS、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructureの4サービスで、すべて外資系企業のクラウドでした。さくらのクラウドはここに加わる5番目のサービスとなります。
なぜ「国産初」がすごいのか
デジタル庁が求める技術要件は305項目あり、不正アクセス防止、データ暗号化、ISMAP(政府が求めるセキュリティ基準を満たしているかを評価する制度)への登録、マルチリージョン対応、災害対策、オブジェクトストレージの提供など、極めて広範囲にわたります。
さくらインターネットは2021年12月にISMAP登録を済ませていましたが、ガバメントクラウドの要件はそれだけでは足りません。2023年11月の条件付き採択から期限の2025年度末まで、インフラの増強と機能開発を続け、305項目すべてをクリアしました。グローバル規模で展開するAWSやAzureと違い、国内市場を主戦場とする事業者がこの水準を満たしたこと自体が、技術力の証明といえます。
AWS・Azure・GCPとさくらのクラウドは何が違うのか
| 比較項目 | さくらのクラウド | AWS / Azure / GCP |
|---|---|---|
| データ所在地 | 日本国内に完結 | 国内リージョン選択可だが海外にも分散 |
| 法的管轄 | 日本法のみ | 米CLOUD法の適用可能性あり |
| 料金通貨 | 円建て(為替リスクなし) | ドル建てが基本(為替変動あり) |
| サポート言語 | 日本語ネイティブ | 日本語対応あり(翻訳ベースの場合も) |
| サービス数 | IaaS基盤が中心 | 数百のPaaS/SaaSを含む |
最も大きな違いはデータ主権(自国のデータを自国の法律と管理下に置くこと)の確保です。米国のCLOUD法は、米国企業が管理するデータに対して米国政府がデータ開示を要求できる法律です。AWS・Azure・GCPはいずれも米国企業のサービスであるため、この法律の適用を受ける可能性があります。さくらのクラウドは日本企業が日本国内で運営するため、この問題が発生しません。
エンジニアの視点でいえば、データの物理的な所在地はレイテンシ(通信の遅延)にも影響します。国内のデータセンターだけで完結するさくらのクラウドは、行政システムのようにレスポンス速度が求められる用途で有利です。また、円建ての固定料金はクラウドコストの見積もりを楽にします。外資系クラウドはドル建てが基本で、円安が進めば同じ使い方でも月額が膨らむリスクがあります。
一方で、AWSやAzureが提供するサービスの数はさくらのクラウドを圧倒しています。さくらのクラウドはIaaS(サーバーやストレージなどの基盤をインターネット経由で提供するサービス)としての提供が中心であり、より高度なアプリケーション機能はパートナー企業のエコシステムで補完する方針です。
自治体にとって何が変わるのか
全国の自治体は2025年度末の期限に向けて、基幹業務システムのクラウド移行を進めています。これまで自治体が選べるガバメントクラウドはAWS・Azure・GCP・OCIの4つ、すべて外資系でした。「行政データを国産クラウドで管理したい」と考える自治体は少なくありませんでしたが、選択肢がなかったのが実情です。
さくらのクラウドが加わったことで、自治体は国産クラウドという新たな選択肢を得ました。円建ての料金体系は予算策定の見通しを立てやすく、日本語ネイティブのサポートは運用面での安心材料になります。ただし、さくらのクラウドはIaaS基盤であるため、業務アプリケーション層はSIerやソフトウェアベンダーとの連携が前提となります。自治体側は、自らの業務要件に合わせて外資系クラウドと国産クラウドを比較検討できるようになったといえます。
日本のクラウド利用料は年6兆円超が海外に流れている
今回の採択には、もうひとつ大きな文脈があります。日本の「デジタル赤字」です。
日本企業や行政機関がAWS・Azure・GCPなどの海外クラウドに支払う利用料は、国際収支上の赤字として計上されます。総務省の情報通信白書によると、クラウドを含むデジタル関連サービスの収支赤字は2024年に約6.7兆円に達しました。2025年の上半期だけでも3.5兆円のペースで、赤字幅は年々広がっています。
背景には、日本企業のクラウド利用率が2014年の38.7%から2023年に77.7%まで伸びたこと、そしてその大半がAmazon・Microsoft・Googleの3社に集中していることがあります。日経xTECHは、この3社が世界のクラウド市場の6割超を占めていると報じています。
行政システムの利用料が国内事業者に支払われるようになれば、その分は日本国内で循環するお金になります。ガバメントクラウドの全体予算から見ればまだ小さな割合ですが、「クラウドのお金がすべて海外に出ていく」構造に選択肢が生まれたことには意味があります。
今後どうなるのか
さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏は、プレスリリースの中で「クラウドは単なるITサービスではなく、社会インフラそのもの。特に行政においては、その設計が持続性や公共の安全に直結する」とコメントしています。
世界的にもデータ主権への関心は高まっています。フィンランドが選挙システムのAWS移行を中止した事例が報じられるなど、米国企業のクラウドに依存するリスクを各国が再評価しつつあります。こうした国際的な流れの中で、日本が国産クラウドの選択肢を確保できた意味は小さくありません。
もちろん、採択はゴールではなくスタートです。実際に自治体がさくらのクラウドを選定し、システムを安定稼働させられるかが次の課題になります。AWSやAzureと比べてサービスの幅に差があるのは事実であり、パートナーエコシステムの拡充が急務でしょう。それでも、政府クラウドの選択肢がすべて外資系だった状況が変わったこと自体は、日本のIT産業にとって大きな一歩です。国内クラウド事業者が世界水準の技術要件を満たせることを証明した今回の採択が、国産クラウド全体の底上げにつながることを期待します。