「働いたら負け」がリアルになる日、俺は逃げ切れるのか
働いたら負け?バイブコーディング全盛期に手書きコードを捨てきれないエンジニアの危機感と矛盾と貯金残高の話
コラム
kkm
Backend Engineer / AWS / Django
「働いたら負けかなと思ってる」が冗談じゃなくなる日

2004年、フジテレビの情報番組『とくダネ!』で、24歳のニート男性がインタビューに答えました。
「働いたら負けかなと思ってる」
日本中が笑いました。「何言ってんだこの人」と。ネットミームとして消費され、一時代を築いた名言です。あれから22年。笑えなくなってきました。
もちろん、今の私は「働いたら負け」側の人間ではありません。フリーランスエンジニアとして10年以上、目を開けている時間のほぼすべてをシステムを作ることに注いできました。でも最近、AIがコードを書く速度と精度を目の当たりにするたびに、あの男性の顔がちらつくのです。
ピクサー映画『WALL-E』を覚えていますか。人類がテクノロジーに依存しきった結果、宇宙船のホバーチェアに寝転がり、自力で歩くことすらできないほど退化した未来。目の前にはモニター、すべての世話はロボットがやってくれる。あの映画が公開されたのは2008年。当時は「さすがにそこまではならないでしょ」と思っていましたが、今、私はホバーチェアに片足を突っ込みつつあります。AIにコードを書かせながら。
ところで、日本社会には暗黙のモテ遷移表があると思っています。小学生は足の速い子、中学生は悪いやつ、高校生・大学生はオシャレなやつ。そして長い社会人生活では「仕事ができるやつ」。平たく言えば、お金を稼いでそのお金で自分を磨ける人が強い。モテるというのは一例で、要は幸福に近いということです。
その「仕事=お金=幸福」というルールの牙城が、AIによって崩されようとしている。仕事の必要性が減れば、社会人のモテ基準も変わる。その手前の学生時代の価値観にまで波及するかもしれない。……なんて大きな話をしていますが、本音を言えば、私が心配しているのはもっとシンプルなことです。
俺、食っていけるのか?
3年前はTab補完で喜んでいた
私のAIコーディング遍歴を振り返ると、その加速度に自分でもゾッとします。
つい3年くらい前。GitHub CopilotをVSCodeに入れて、単純作業的なコメント記載やTabキーでちょっと進化したコード補完をしていた程度です。「おお、次の行を予測してくれるのか、便利だな」くらいの感動。この時点では、AIはあくまでちょっと賢い予測変換でした。
1年くらい経つと、ChatGPTでライブラリの使い方を聞いたり、メソッドを丸ごと生成させてこっちで手直しして実装するようになりました。「公式ドキュメント読むよりChatGPTに聞いた方が早い」と気づいた瞬間です。まだ自分で直す工程があったので、「道具を使っている」感覚はありました。
さらに半年経つと、モジュール丸ごとチャット欄に投げて編集させ、戻ってきたコードをコピペで貼り付けるだけでよくなってきた。直す量がどんどん減っていく。「道具を使っている」から「道具に使われている」への境界が曖昧になっていきます。
そしてさらに1年。Claude CodeやChatGPTのDeep Researchが、私の調査より正確な結果を返すようになりました。ライブラリの選定、ベストプラクティスの調査、エラーの原因特定。数週間の学習コストを想定していた新しいフレームワークを、AIは数分で使いこなす。「調査」という仕事が消えた瞬間です。
Devinを使い始めてからは、Issue丸ごとAIにやらせてPRだけチェックするようになりました。Claude Code CLIも導入して、もはや私が半端に実装に手を出すよりレビューに徹するか、Issue起票や設計時点の方向性の調整に時間を割いた方がいい。そう気づいてしまった。
今日現在、1文字も自分でコードを書かない日が増えてきました。Claudeのスキルやスラッシュコマンド、サブエージェントに自分の知識や設計思想をチューニングして突っ込んでいく時間の方が長い。コードを書く人から、AIを調教する人にジョブチェンジしつつある。
3年です。たった3年で、「Tab補完うれしい」が「今日も1文字も書かなかった」になった。
| 時期 | 使っていたもの | AIができたこと | 自分の役割 |
|---|---|---|---|
| 2023年頃 | GitHub Copilot | 次の行の予測、コメント補完 | コードを書く主体。AIはアシスト |
| 2024年前半 | ChatGPT | メソッド生成、ライブラリ解説 | 生成されたコードを手直しして実装 |
| 2024年後半 | ChatGPT + Copilot | モジュール単位の編集 | コピペ戻し。直す量が激減 |
| 2025年〜 | Claude Code / Cursor / Devin | 調査・実装・テスト・PR作成 | 指示を出す人。レビュアー? |
| 2026年〜? | ??? | ??? | お前いる? |
最後の行に「お前いる?」と書きましたが、これは自分に向けた問いかけです。
ただし、ひとつ重要な但し書きがあります。今の時点では、そのシステムを自力で作れるくらいの実力がないと、AIを使ってもまともなものは作れません。厳密に言えば「作れちゃう」んです。動くものは出てくる。でも、とても本番運用に耐えるものではない。AIに指示を出す側に、システムの全体像が見えていなければ、出来上がるのは見た目だけ整った砂上の楼閣です。
数字で見る「もう戻れない」現実
「自分の感覚だけで語るな」と言われそうなので、数字を並べます。
- 84% 開発者がAIツールを使用または使用予定(Stack Overflow 2025 Developer Survey、回答者9万人超)。2023年の70%から14ポイント上昇
- 41% 全世界のコードのうちAIが生成した割合(2024年、複数調査の集計)。2560億行がAIによって書かれた
- 75% GitHub Copilot利用者のPR作成時間の短縮率。9.6日→2.4日(GitHub公式統計)
- 25% Y Combinator 2025冬バッチのうち、コードベースの95%以上がAI生成だったスタートアップの割合
- 20% 22〜25歳のソフトウェア開発者の雇用減少率。2022年後半のピークから(Stanford Digital Economy Study)
特に最後の数字、若手エンジニアの雇用が20%減っているという事実は重い。「ジュニアの仕事がなくなる」は、もはや仮説ではなく統計です。
GitHub Copilotのユーザー数は2025年7月時点で2,000万人を突破しています。Fortune 100企業の90%が導入済み。もう「使うか使わないか」のフェーズはとっくに終わっていて、「どこまで任せるか」のフェーズに入っています。
個人的に一番刺さったのは、Stack Overflowの調査で「AIは自分の仕事にとって脅威か」という質問に64%が「No」と答えていることです。まだ過半数は楽観的。でも前年の68%からは下がっている。楽観が少しずつ削られているのが見えます。
それでも今のバイブコーディングはろくなもんじゃない
ここまで読むと「もうエンジニア終わりじゃん」という気分になりますが、ちょっと待ってください。希望というか、執行猶予というか、今のバイブコーディングの現実も見ておきましょう。
Stack Overflow 2025調査によれば、開発者の75.3%がAIの回答を信頼していないと答えています。使ってはいるけど信用はしていない。なかなか複雑な関係です。
さらに深刻なのはセキュリティの話。Veracodeの2025年レポートでは、AI生成コードサンプルの45%にセキュリティ上の問題(SQLインジェクションやXSSなどOWASP Top 10レベルの脆弱性)が含まれていたことが報告されています。バイブコーディングにおける脆弱性注入率は最大62%に達するというDatabricksの調査もあります。
「動く」と「良い」は違います。バイブコーディングで生成されたコードは、確かに動く。テストも通る(テスト自体もAIが書いているので当然ですが)。でも、命名規則の不統一、冗長なロジック、誰にも読めないスパゲッティコード。ある記事では、これを「誰にも直せない産業廃棄物」と表現していました。言い得て妙です。
少なくとも2026年の日本の開発現場で、バイブコーディングだけで作られたシステムがまともに運用されている例を私は知りません。個人開発やプロトタイプなら話は別ですが、企業の基幹システムやお金が絡むサービスで「AIに全部書かせました」は、まだ通用しない。
ただし。ここが怖いところなんですが、AIツールへの肯定感は70%から60%に下がっている一方で、利用率は76%から84%に上がっている。信用していないけど使う量は増えている。これ、タバコと同じ構造じゃないですか。体に悪いと知りながらやめられない。
空調屋に戻ろうかな、半分マジで
半分冗談で、半分マジです。
最近、ブルーカラーへの転職を真剣に調べたことがあります。配管工とか空調とか、そういうやつです。AIが物理的に配管を繋ぐ日はまだ遠い。現場に行って、手を動かして、直す。このシンプルさに惹かれている自分がいます。
「いや、お前10年もコード書いてきて今さら配管かよ」と思われるかもしれません。私もそう思います。でも考えてみてください。私がこの10年で磨いてきたスキルの内訳を。
コードを書く技術。これは今まさにAIに追いつかれ、追い越されつつある。ライブラリの学習コスト?AIは数分で使いこなす。デバッグ力?Claude Codeの方がスタックトレースの読解が速い。
じゃあ残っているのは何か。意思決定。ビジネスとシステムの特性に合わせたアーキテクチャの選定。「このケースではマイクロサービスにすべきか、モノリスで十分か」「この規模感ならRDBで足りるのか、NoSQLが要るのか」。こういう判断は、まだ人間の領域です。まだ。
でもコンテキストウィンドウが巨大になったらどうなるか。今のAIが苦手としている「システム全体を俯瞰した判断」が、コンテキストに100万トークン、200万トークンと入るようになったら?設計書もビジネス要件も過去の障害レポートも全部読み込んだ上で「この場合はこのアーキテクチャが最適です」と言い始めたら?
もっと言えば、今私が稼げているのは、まだIT以外の業界にバレていないだけじゃないかという疑念があります。エンジニアの人件費コストがこれまでの数分の1になったこと。それがクライアント側に認識された瞬間、単価は崩壊する。AIに仕事を奪われる前に、市場価格に殺される可能性だってある。
……空調屋の求人サイト、また眺めてしまった。戻りたくないのに。
AIバブルは弾けるのか、AGIは来るのか

ここで少し俯瞰してみます。そもそも、この「AIがすべてを奪う」という前提は正しいのか。
一つのシナリオはAIバブルの崩壊です。著名エコノミストのルチル・シャルマ氏はBusiness Insider Japanのインタビューで、現在のAIブームは「過剰投資」「過大評価」「過剰所有」「過剰レバレッジ」の4項目すべてで警告サインが出ていると指摘。金利が上昇に向かう兆候がわずかでも見えたら、バブルが一気に弾けかねないと警鐘を鳴らしています。
もしAIバブルが崩壊したら? AI企業の資金が枯渇し、今のように月額数十ドルで最先端のAIが使える時代が終わるかもしれない。個人で手が届かない金額になったら、バイブコーディングどころの話ではなくなります。元のコードを手で書く時代に戻る。……正直、それはそれで少しホッとする自分がいます。
一方で、Anthropic CEO ダリオ・アモデイ氏は、2026年末〜2027年初頭にパワフルなAIシステムが出現すると予測しています。もう1年を切っています。80,000 Hoursがまとめた専門家予測の中央値は2033年ですが、DeepMind共同創設者のシェーン・レッグ氏は2028年に50%の確率でAGIが到来すると見ています。
バブルが弾けて元に戻るのか。それともAGIに到達して人類ゴールなのか。誰にもわかりません。
ただ、どちらのシナリオでも共通しているのは、「今のまま」は続かないということです。バブルが弾けるなら、AIに頼りきった人が困る。AGIが来るなら、人間のエンジニアリングスキルの価値が根本から変わる。どちらに転んでも、何かが変わる。数年の猶予はありそうですが、10年はない気がしています。
もしAGIが本当に来て、人類が労働から解放されたとして。それは喜ばしいことなんでしょうか。WALL-Eのホバーチェアに座った人間を見て「これが理想の未来だ」と思える人がどれだけいるか。私の仕事がなくなることは人類の進歩の第一歩です、と笑顔で言える自信は、今のところありません。
税金クソ高いけど、たぶん大丈夫
ここまで書いてきて、自分でもよくわからなくなりました。
バイブコーディングについていくためにAIをガンガン使う。月にけっこうな額を課金して、Claude CodeでもCursorでもChatGPTでも使い倒す。一方で、AIに頼らないわざわざ自力コーディングもする。矛盾しています。「AIについていく」と「AIに頼らない」を同時にやっている。
でもこの矛盾が、たぶん今の時代の正解なんだと思います。片方だけでは足りない。AIを使いこなせないエンジニアは効率で負ける。でもAIしか使えないエンジニアは、AIが壊れたとき何もできない。両方やるしかない。矛盾だけど、これが現実です。
これっていつまで逃げ切れるんだろう。正直わかりません。3年前にTab補完で喜んでいた自分が、3年後に「あの頃はまだ自分でコード書いてたんだよ」と懐かしがっている可能性は、かなり高い。
ただ、今この瞬間に限って言えば、バイブコーディングしまくって作られたシステムはろくなもんになっていません。少なくとも日本の開発現場では。セキュリティ穴だらけ、読めないコード、テストが通るけど本番で死ぬ。これを「大丈夫」と呼んでいいのかは微妙ですが、少なくとも「今すぐ全員クビ」ではない。猶予はある。たぶん。
この10年、目を開けている時間のほぼすべてをシステムを作ることに向けてきました。その投資が無駄になるのか、形を変えて活きるのか。結論は出ません。出ないまま、明日もコードを書きます。AIと一緒に。たまに一人で。
ちなみに今年の税金がクソ高くて、貯金がちょっと心許なくなっています。
俺、大丈夫?笑
……まあ、税金払えてるうちは大丈夫でしょ。WALL-Eのホバーチェアに座る前に、もうちょっとだけ手を動かしてみます。空調屋の求人ブックマークは、念のため消さないでおきますが。