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全銀システムが2030年に生まれ変わる。53年間「止まらなかった」決済インフラの全面刷新

全銀ネットが2030年稼動を目指す新決済システムの構想を発表。即時着金確認、海外決済接続、ステーブルコイン連携を盛り込み、53年間動き続けたインフラを根本から作り直す。

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kkm-horikawa

kkm

Backend Engineer / AWS / Django

2026.03.238 min3 views

全銀ネットが「新しい決済システムを作る」と発表した

2026年3月19日、全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が、現行の全銀システムとは別に「新たな決済システム」を構築する構想を公表しました。稼動目標は2030年。即時着金の確認、海外の決済システムとの相互接続、ステーブルコインとの連携まで視野に入れた、53年ぶりの根本的な作り直しです。

発表の正式名称は「資金決済システムの将来像に関するスタディグループにおける検討結果」。2025年度に設置されたスタディグループが1年かけて議論した結果をまとめた報告書です。

ただし、まだ「構築する」と決まったわけではありません。2026年度中に構築するかどうかの最終判断を行う段階です。とはいえ、報告書には新システムのアーキテクチャ、ロードマップ、提供機能が具体的に記載されており、単なる検討段階を超えた温度感が読み取れます。

そもそも全銀システムとは何か

銀行の振込ボタンを押したとき、裏側で何が起きているか。A銀行からB銀行にお金を送るとき、両者を仲介しているのが全国銀行データ通信システム(全銀システム)です。

1973年に稼動を開始し、現在は日本のほぼすべての預金取扱金融機関が参加しています。1日平均772万件、15兆円の送金を処理し、年間の取引額は約3,600兆円。日本のGDPの約6倍の金額が、このシステムを通じて毎年動いています。

項目数字
稼動開始1973年4月9日
参加金融機関1,070行
(モアタイムシステム加盟、2026年1月時点)
1日の取引平均772万件 / 15兆円
年間取引額約3,600兆円
システム更改概ね8年ごと(現行は第7次、2019年稼動)
運用体制東京・大阪2センター並行運転
24時間365日監視

2018年には平日夜間・休日にも対応する「モアタイムシステム」が稼動し、銀行振込の24時間365日化が実現しました。それ以前は、金曜の夜に振り込んだお金が届くのは月曜日でした。

東京と大阪の2か所のデータセンターで同じシステムを同時に動かしており、片方が止まっても、もう片方だけで運用を続けられます。電源、記憶装置、通信回線もすべて二重化されています。

53年前のメインフレームから抜け出す

全銀システムの中核部分は、富士通製のメインフレームで動いています。プログラミング言語はCOBOL。1970年代から使われている構成です。

問題は、富士通がメインフレームの製造・販売を2030年度に終了し、保守も2035年度で打ち切ると発表していることです。1964年のFACOM 230シリーズ以来、約66年のメインフレーム開発の歴史に幕を閉じることになります。

つまり、今のまま使い続けることはできません。全銀ネットは2028年5月に稼動予定の第8次全銀システムで、メインフレームからオープン基盤へ、COBOLからJavaへの移行を進めています。構築を担うのはNTTデータです。

2023年、50年間で初めて止まった日

2023年10月10日、全銀システムで1973年の稼動以来、初めて顧客に影響が出る障害が発生しました。三菱UFJ銀行を含む10行で送金が滞り、影響は約566万件に及びました。

何が起きたのか

直接の原因は、中継コンピューター(RC)を32ビット環境から64ビット環境に更改した際の設計ミスです。64ビット化によってデータテーブルのサイズが増えたにもかかわらず、メモリの作業領域を拡張しなかったため、テーブルの一部(約2%)が別のプログラムの領域にはみ出し、データが破損しました。

約6,000パターンのテストを実施していましたが、「複数のプログラムが同時に動作する環境での検証」が不足しており、すり抜けました。NTTデータは「製造部門のみでプログラム修正方針を決定し、詳細設計の関係者を含めなかった」ことが根本原因と説明しています。

50年間「大規模障害は起きない」と思われてきたシステムで起きた障害は、刷新計画にも影響を与えました。当初2027年11月に予定していた全面刷新は、段階移行方式に方針転換。新システムの稼動後も現行システムを約1カ月間並行稼働させ、問題が起きたら切り戻せるようにしました。

そして、既存システムの延長線上での改修には限界があるという認識が、今回の「まったく新しい決済システムを作る」という構想につながっています。

なお、大規模システム移行の難しさについては、大阪府警が50年間運用したシステムの移行に失敗した事例も参考になります。

2028年と2030年、2つの刷新が同時に進んでいる

ここが少しややこしいのですが、今、全銀システムには2つの刷新プロジェクトが並行して走っています

第8次全銀システム新たな決済システム
稼動時期2028年5月2030年(目標)
位置づけ現行システムの
「置き換え」
完全に新しい
システムの「新設」
主な変更メインフレーム→オープン基盤
COBOL→Java
即時着金、海外接続
ステーブルコイン連携
構築ベンダーNTTデータ未定
現行との関係第7次を置き換え
(1カ月並行稼働後)
当面は現行と併存

第8次は「今あるものを現代的な基盤に載せ替える」作業です。富士通のメインフレームが2030年に販売終了するため、待ったなしで進める必要があります。

一方、新決済システムは「そもそも全銀システムの設計思想を根本から変える」プロジェクトです。公式の報告書には、現行システムの課題として「度重なる機能追加や制度対応で設計が複雑化した」「部分的な改修では限界がある」と明記されています。

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新しいシステムで何が変わるのか

全銀ネットのサマリーペーパーから、新決済システムの主な機能をまとめます。

稼動当初に提供される機能

  • 1. 即時着金と着金確認。現行の全銀システムでは、振込が届いたかどうかをリアルタイムに確認する仕組みがありません。新システムでは、送金元に「届きました」という確認が即座に返ります。
  • 2. 送金先口座の事前確認。振込先の口座情報が正しいか、送金前に確認できるようになります。振込間違いの防止につながります。
  • 3. 詐欺対策情報の添付。送金データに構造化されたマネーロンダリング対策情報を添付でき、不正送金の検出精度が上がります。
  • 4. ISO 20022対応。国際標準の送金フォーマットに対応します。現行システムは独自プロトコルを使っているため、国際的な規制対応のたびに膨大なコストがかかっていました。

将来的に検討される機能

  • 5. 海外の即時決済システムとの相互接続。アジア諸国のリアルタイム決済システムを相互接続する「Project Nexus」との連携が視野に入っています。実現すれば、日本から海外への送金も即時化できる可能性があります。
  • 6. QRコード送金・支払リクエスト。携帯電話番号を使った送金やQRコードによる決済など、多様な送金手段を柔軟に追加できる設計になります。
  • 7. ステーブルコインやトークン化預金との連携(次のセクションで詳しく)。

ステーブルコインや「トークン化預金」とどうつながるのか

今回の報告書で注目されているのが、新システムの基盤としての役割に「ステーブルコイン、トークン化預金等のデジタルな決済手段やアセットなどとの円滑な連携」が明記されている点です。

ステーブルコインとは、日本円などの法定通貨と価値が連動するように設計されたデジタル通貨のことです。トークン化預金は、銀行預金をブロックチェーン上のトークンとして表現する仕組みで、24時間365日のプログラム可能な決済を可能にします。

全銀ネットのサマリーペーパーでは、新システムが「資金決済面から支える基盤」になるとされています。つまり、ブロックチェーン上で動くお金と、銀行口座のお金を、シームレスにつなぐインフラになることを目指しているのです。

JPYCの反応

日本円ステーブルコイン「JPYC」を発行するJPYC株式会社は、この発表を受けて即日プレスリリースを出しました。「日本の金融システムが未来に向けて大きく一歩を踏み出す画期的な出来事」と位置づけ、2028年稼動予定の第8次全銀システムの更改スケジュールに合わせて、JPYCが新たな決済システムに参加可能となるよう体制強化を決定したとしています。

JPYC代表の岡部典孝氏はX(旧Twitter)で「JPYCも早速新全銀システムに接続検討するよう指示しました」と投稿しています。

ただし、繰り返しになりますが、新決済システム自体がまだ「構築するかどうかを2026年度中に判断する」段階です。ステーブルコインとの連携は「将来的に検討」とされている項目であり、2030年の稼動時点で実装される保証はありません。

技術的に見ると、何が難しいのか

年間3,600兆円を処理するシステムを「止めずに新しくする」のは、走っている車のエンジンを交換するようなものです。2023年の障害は、まさにその難しさを証明しました。

現行システムの課題

全銀ネットの報告書は、現行システムの問題点を率直に記しています。

  • 密結合・独自プロトコル。システム全体が密に結合しているため、一部を変えると他に影響が及ぶ。新機能の追加や海外システムとの接続が実質的に困難になっている。
  • メインフレーム依存によるコスト高。市場が縮小しているメインフレームを使い続けるため、更改費用が膨張し、技術者の確保も困難になっている。
  • 中継コンピューター(RC)の接続負担。各銀行は専用の中継コンピューターを通じて全銀システムに接続しており、この維持が重い負担になっている。

新システムの設計思想

新システムでは、これらの問題を解消するために以下の設計方針が示されています。

  • ミッションクリティカルエリア + アジャイルエリアのレイヤー構造。送金の中核処理と付加機能を分離し、新機能を迅速に追加できるようにする。
  • APIゲートウェイによる接続。各銀行が専用ハードウェアなしでAPIを通じてシステムに接続できるようになる。中継コンピューター(RC)の廃止が2035年に予定されている。
  • 障害からの復元力(レジリエンス)の強化。2023年の障害では、東京・大阪の二重化がありながら同一プログラムを適用していたため同時障害に対応できなかった。新システムではこの教訓が設計に反映される。

53年目の再出発

全銀システムは1973年の稼動以来、日本の経済を文字通り「裏側で支えてきた」インフラです。普段は誰も意識しませんが、給与振込、公共料金の支払い、ネット通販の代金、すべてこのシステムを通っています。

2028年の第8次システムでメインフレームを脱却し、2030年には即時着金や海外接続に対応する新システムの稼動を目指す。同時に進む2つの刷新は、日本の決済インフラにとって歴史的な転換期です。

2023年の障害で「50年間止まらなかった」という神話は崩れました。しかし、その経験があったからこそ、「部分的な改修ではなく根本から作り直す」という判断に至ったとも言えます。

最初の分岐点は、2026年度中に予定されている構築是非の最終判断です。

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